マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
母が語る日本ハム・西川遥輝の天才。
「自分のこと一番うまいと思ってる」
posted2015/06/01 10:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
NIKKAN SPORTS
日本ハムのリードオフマン・西川遥輝の仕事ぶりがいよいよ本物になってきた。
5月22日のソフトバンク戦。
5-5で迎えた9回裏。1死一塁で5回目の打席がまわってきた。
マウンドで迎え撃つのは左腕・森福允彦。外寄りのストレートにバットヘッドを存分に走らせて振り抜くと、打球はライナーとなって札幌ドームの高い左翼フェンスを直撃。一塁走者・杉谷拳士が快足を飛ばして、ころげ込むようにサヨナラのホームベースを踏んだ。
その翌日がさらにすごかった。
プロ入り5年目、レギュラーになって2年目の若い打者なら、前夜の“勢い”がかえって邪魔になるもの。
なのに最初の打席が、三塁前に一発できめたセーフティーバントだ。
さあ、今日はどっちに打ってやろうかい……。
“凡人”ならそんな色気丸出しで外野の遠くを見渡したくなるところを、この若き天才は、ソフトバンクの三塁手・松田宣浩の深めの守備位置を目の中にとらえていた。サヨナラ打など、たいしたことではないのだろう。
「まさか打ってこないだろう」誰もがそう思った。
さらにさらに、次の打席がもっと驚いた。
2回だ。先取点を奪った直後の1死満塁、ソフトバンクの先発・スタンリッジは明らかに、この若き天才を嫌っていた。
「できればボール球を打ってもらおう」
そんな狙いだったのだろう。3つ続いたボールは、いずれもベースぎりぎりに投じた誘い球。どれも、彼が打ちたいボールではなかった。しかし西川は手を出さず、カウントはその通り「ボール3」になっていた。
「まさか打ってこないだろう」
私もそう考えていたし、向き合っていたスタンリッジはもっとそう確信していただろう。
このボールだけ、間(ま)が短かった。
ストレートに見えた。真ん中ちょい低め。
いちばん力の入るスイング軌道だったはず。インパクトの弾け方が違った。前の大きな華麗なスイング。定規で線をひいたような美しい軌道を描きながら、打球は右中間のスタンドに消えていった。