NumberEYESBACK NUMBER

心臓に毛が生えた14歳、伊藤美誠が生きた「時間」。
~卓球少女から感じる融通無碍~ 

text by

藤島大

藤島大Dai Fujishima

PROFILE

photograph byAFLO

posted2015/04/10 10:00

心臓に毛が生えた14歳、伊藤美誠が生きた「時間」。~卓球少女から感じる融通無碍~<Number Web> photograph by AFLO

3月24日現在、日本女子で7番目の世界ランク38位。目指すはリオ。

 14歳と152日での優勝をむやみに感嘆するまい。卓球はレスリングではない。このくらいの年齢の才能がひとつの大会の頂点に立つ可能性ならありえた。

 ただし、この春からの中学3年生、伊藤美誠(みま)の落ち着いた態度はまさに驚きだった。試合中も試合後も感情がぐらつかない。

 ドイツ・オープン決勝を制した瞬間、左腕をわずかに曲げて小さく笑った。それがすべて。映像に大写しの表情は、自分のこしらえた装飾細工を初めて教会のバザーで手にとってもらえた少女のようだった。

 ワールドツアーにおけるシングルスの最年少優勝は、ゴールドの質感より薄い木綿の手触りを想起させた。あるいは花壇の隅の小さく白い花。「静かなる歓喜」とでも書けばよいのか。そのことが、むしろ怪物性を感じさせた。スポーツはそもそも「動」だから、しばしば「静」に迫力は宿る。

意表をつくサーブに洞察力、コロコロと変える戦術。

 3月24日付の東京新聞にこんなコメントを見つけた。

「心臓に毛が生えている」

 古典的な表現だ。これ、卓球の日本女子代表の村上恭和監督による「伊藤美誠評」である。57歳の指導者は、14歳の図太さ、強心臓をそう述べた。さらにはこうも。

「意表をつくサーブ、コロコロと変える戦術、相手の先を読む力がある」。なんだかベテランの成熟を解説しているみたいだ。

 それにしても「コロコロと変える戦術」とは。14歳が勝って不思議はないけれど、14歳が融通無碍にタクティクスを転がせば、それは稀有だ。

 14歳と152日。さて自分は何をしていたのか。東京の国立市立第一中学サッカー部の「中盤の削り屋」を自負しつつ、『サッカーマガジン』のグラビアを切り抜いては無邪気に下敷きにはさんでいた。試合中、「蹴れ!」と指示すべきところを「蹴ろ!」とよく叫んだ。練習の帰り、たまに悪友とカウンターだけのラーメン店に寄るのが無上の喜びで、そこで生まれて初めて親族と先生でない人に物事を教わった。主人はサッカー小僧に諭した。「ダメだよ。ワンタンメンとギョーザを一緒に頼んじゃ」。確かに皮が重なる。

【次ページ】 2歳でラケットを握り、子供の頃から真剣勝負してきた。

1 2 NEXT
1/2ページ
関連キーワード
伊藤美誠
オリンピック
リオデジャネイロ五輪
卓球

ページトップ