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福原愛が五輪直後に語った本心。
「胸にこみあげたのは、安堵感だけ」
posted2017/01/15 07:00
text by
城島充Mitsuru Jojima
photograph by
Kaoru Watanabe/JMPA
ロンドンに続き、団体で2大会連続メダルに輝いた。
主将という重責も担いながら挑んだ戦いの日々。
プレッシャーから解放された福原愛の本音に迫った。
何があっても、動じない――。
2004年のアテネ五輪以来、4大会連続出場となるオリンピックを前に、福原愛は自らの胸に何度もそう言いきかせた。卓球日本女子代表のキャプテンとして、23歳の石川佳純と、15歳の伊藤美誠をひっぱっていく矜恃をその一点に求めたのだ。
「私が少しでも動じると、佳純ちゃんと美誠も大変だし、悪い影響を与えてしまう。もともとリーダータイプじゃないから、せめてプレー中はもちろん、コートの外のどんなことにでも一喜一憂しないように心がけようと思っていました」
実際、団体戦の3位決定戦でシンガポールを下して銅メダルを獲得する瞬間まで、福原は感情の起伏を表に出さなかった。
「苦しい……、本当に苦しいオリンピックでした」
「苦しい……、本当に苦しいオリンピックでした」
こらえていた涙をあふれさせながらそう声を絞り出した姿に、多くの人が27歳になった“泣き虫愛ちゃん”が背負ってきた重圧の大きさに思いを巡らせたのではないか。福原もまた、自らが口にした言葉に心を揺さぶられていた。
「いつもは伝えるべきことを整理してからミックスゾーンに向かうのですが、あの時だけは、胸のなかにあった感情がそのままあふれ出しました。そんな自分を見て、精神的にぎりぎりの状態まで追い詰められていたことに改めて気づきました」
銅メダルを胸に帰国してからも、彼女は自らに課した矜恃を持ち続けたのだろうか。日本卓球界を支え続けてきたヒロインは地球の裏側で直面した苦悩と、その試練を乗り越える糧となった覚悟について多くを語っていない。