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全米中を熱狂させた、1頭と3人のシンデレラ物語。
~『シービスケット』の伝説を読む~ 

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馬立勝

馬立勝Masaru Madate

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posted2014/06/14 10:30

全米中を熱狂させた、1頭と3人のシンデレラ物語。~『シービスケット』の伝説を読む~<Number Web> photograph by Sports Graphic Number

『シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説』ローラ・ヒレンブランド著 奥田祐士訳 エムオン・エンタテインメント 現在絶版(2003年刊)

 アメリカの大恐慌が終息に向かう1938年、短い脚に出っ張った膝と短い尻尾を持つ小柄な競走馬が国民的アイドルになった。馬の名はシービスケット、500ページを超える本書はこの馬の伝記だ。

 シービスケットはレースより食べること、寝ることが好きだった。1勝するまで17レースもかかり、見限られ売りに出された。新馬主は東部から西部に移り自動車販売業で成功したチャールズ・ハワード。「買ってくれ。ホンモノだ」一目でシービスケットの能力を見抜いた調教師トム・スミスは、馬を知り尽くした無口な西部男。騎手は少年時代に極貧の家を離れ、競馬場を転々とする本好きで、片目が見えないのを秘密にしているレッド・ポラード。この1頭と3人が全米一を目指す“シンデレラ物語”である。

 アメリカの三冠レースは東部で行われる。競馬界は東部上流階級とその馬とが支配していた。東部のヒーローは三冠馬ウォーアドミラル。西部で勝ち進むシービスケットの人気は、ハワードの車販売で鍛えたPR話術とそれを伝える新聞とラジオの力で沸騰した。三冠馬との対決を望む西部。「田舎馬が」とすげない東部。紆余曲折の末、西の庶民と東の名門それぞれのヒーローのマッチレースが、全米注視の中で行われる。

シービスケットを追う女性競馬記者の語り口が冴える。

 このレースをハイライトに、競馬記者ローラ・ヒレンブランド女史の語り口が冴える。大恐慌で疲弊した人々がいかにヒーローを求めていたか。シービスケットを報じることでマスコミがいかにその需要に応えたか。この社会の流れを背景に、シービスケットの故障や、落馬事故での騎手の変更など、1頭と3人が様々なハードルをいかに突破したかを迫力あるレース描写をたたみこんで活写した。シービスケットはカメラにポーズをとり、厩舎の誘導馬や犬と仲良し……こんな挿話も生きている。

 大きな構えと正確な細部の妙、「一読三嘆、波乱万丈」とはまさに本書。傑作大衆小説を誉める常套句は「荒唐無稽」と続くが、こちらは「実話」だ。1頭と3人の余生を見つめる最終章がそれを実感させる。YouTubeの対決実写映像は必見。

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