「今の僕があるすべては大洋のおかげなんです」

　びっくりするほどの「成功者」である。

　そんな近藤氏が、筆者に向かい真顔でこんなことを言うのだった。

「今の僕があるすべては大洋のおかげなんです」

　脳外科医にして凄腕の美容整形医師、経営者としても成功を収めた。趣味の釣りが高じメデイアでも活躍する釣りライターの側面も持つ現代の傾奇者、近藤惣一郎のもうひとつの顔。

　それは筋金入りの「大洋ファン」。正確には大洋・横浜・DeNA・ベイスターズファンなのだが、彼は、このチームのことを「横浜」でも「DeNA」でも「ベイスターズ」でもなく、今でも「大洋」と呼び、自らを「大洋ファン」と称する。

「僕の人生は決して順風満帆ではない。医師として、経営者として、一人の男として今あるのは、すべて大洋ホエールズのおかげなんです。小学校1年生でファンになって以来、40年以上にわたり、熱狂的に応援し続けてきたおかげで、大洋は僕に様々な事を教えてくれました。今はその恩返しをしたいと考えているのです」

　大洋ホエールズ初優勝から3年後の1963年岐阜県生まれ。普通のプロ野球ファンであった近藤少年が、小学校1年生の頃、初めて見た大洋ホエールズ。そこにいた天秤打法の近藤和彦、スクイズ大好き近藤昭仁。始まりはそんな些細なことだった。自分と同じ姓である「W近藤」がいたことに縁を感じ、以降、負ければ本気で泣きじゃくる熱狂的なファンとなった。

　しかし、時代はジャイアンツV9時代。そして近藤少年が暮らすのはドラゴンズ勢力下である岐阜市。大半の少年は中日か巨人のファンであり、父親も中日ファン。当然、松原や田代、山下大輔などのファニーでキッチュな男っぷりを理解する大洋ファンはクラスに誰一人いない。

「大洋は弱い、それでも愛することができたんです」

　そんなマイノリティな状況が近藤氏の成長過程に強く影響を及ぼしたと振り返る。

「僕が今こういう性格になって、医者になってからも困難に負けず立ち向かって行けるようになったのも、子供の頃の免疫ですよ。思い通りにならないことでも挫けない。そして人と違っていても、自分を持つ。周りにどう言われようとも自分を貫くこと。そんなことを『大洋ファン』であることを通じ、小学生のうちから実践できていたことが、その後の人格形成に大きく関係したんだと思います。

　そりゃ、当時も弱かったですよ。だけど、弱いからと言って放り出すのは簡単。男が一度愛すると決めたなら貫かないかん。僕はサムライを意識してこのチョンマゲも結ってます。“二君にまみえず”じゃないけども、皆とは違っていても自分が信じたものに胸を張れた。でもね、それは視野の狭い、盲目的な愛じゃないんです。大洋は弱い、巨人や中日に比べたらどうしようもない球団だと気付いた上で、認めた上で、それでもこの球団を愛することができたんです」

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