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球場は記憶を呼び起こす
トリガーになる。
~『昭和プロ野球「球場」大全』~ 

text by

幅允孝

幅允孝Yoshitaka Haba

PROFILE

photograph byRyo Suzuki

posted2014/02/25 06:10

球場は記憶を呼び起こすトリガーになる。~『昭和プロ野球「球場」大全』~<Number Web> photograph by Ryo Suzuki

『昭和プロ野球「球場」大全』洋泉社編集部・編 洋泉社 1600円+税

 懐かしのあの野球場は、俺のものだ。と、多分みなが思っているのだ。人の記憶の数だけ、球場はある。昭和プロ野球史を彩った数々の名球場であれば、幾人もの思い出がそこに溶け込み流れ、大きな河のようになっているのだろう。

 藤井寺球場、阪神甲子園球場、後楽園球場、平和台野球場など、30ものスタジアムの来歴を紹介する本書。現存するもの、今はなきもの様々だが、伝説の舞台となった昭和の球場にまつわる物語を、いまの時代に蘇らせる意欲的な試みだ。多くの写真や関係者へのインタビューなどで、当時の熱源をあきらかにしながら、一方でこの本はあの頃の自分に語りかけてくるから、戸惑ってしまう。

球場で起きた“伝説”と自身の記憶が交錯する魅力。

 僕の場合はナゴヤ球場。父に連れられ初めて行った野球場は、どて焼きのあまい味噌の匂いがした。正門をくぐると「ポッカコーヒー」の看板。両翼は91.4mで中堅は118.9m……。子供には随分大きく感じたグラウンドは天然芝だった。あの球場で起こったことと、自身の記憶が交錯し、もういちど結節点をつくるところにこの本の一番の魅力がある。

 1987年8月9日のナゴヤ球場は、地元出身のルーキー近藤真一が急遽先発。7回表に原辰徳を空振りの三振に切った辺りで父は食卓を離れ、テレビに齧りついた。巨人を相手に、中日の新人がプロ初登板でノーヒットノーラン。今でも父は酔うとあの晩の奇跡について語らい、懐かしい名古屋の思い出が染みだしてくるようだ。

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