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大番狂わせで王座獲得。
在日の新ヒーローが誕生。
~李冽理、世界Sバンタム級王者に~ 

text by

前田衷

前田衷Makoto Maeda

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photograph byBOXING BEAT

posted2010/11/08 06:00

大番狂わせで王座獲得。在日の新ヒーローが誕生。~李冽理、世界Sバンタム級王者に~<Number Web> photograph by BOXING BEAT

 今年一番の番狂わせで、新たな在日の英雄が誕生した。去る10月2日後楽園ホールで行なわれたWBA世界スーパーバンタム級タイトル戦で、タイの難攻不落の王者プーンサワット・クラティンデーンジムに殊勲の12回判定勝ちで王座を奪った李冽理である。

 かつて「自分のときも含め、世界チャンピオンが誕生するときは全部番狂わせ」と至言を吐いたのは渡嘉敷勝男だったが、たしかに程度の差こそあれ、新王者誕生劇のほとんどは予想を覆したものだ。しかもその予想は「王者は強い」という先入観もあって、挑戦者の実力が過小評価されがちである。李が演じた超弩級の番狂わせもそのケースだった。

 戦前はプーンサワットの評価が高かった上に、李の知名度も低かった。地上波のテレビ中継がなく、後楽園ホールという小さな舞台ひとつをとっても、リスキーな挑戦だったことがうかがえる。だから、試合前日会見で「予想を覆して勝ちたい」と李が控えめな抱負を語ったとき、その通りになると信じたメディアや関係者は少なかったろう。

 正直に告白すると、筆者は早くから李に徳山昌守と同質の技巧を認めてきたつもりだが、それでも今度の挑戦で勝てると断言するほど向こう見ずではない。タイの王者は経験も実績も李をはるかに凌駕していたからである。

徳山の「武器」を受け継いだ李の緩急自在のボクシング。

 しかし試合では、李が王者の決定打を封じる見事なアウトボクシングを見せ、接近戦でも負けなかった。敗者は「彼は逃げる一方だった」と捨て台詞を吐いたが、李はこれを褒め言葉と聞けばいい。

 観戦していて、既視感を覚えた。徳山が初挑戦で韓国の無敗王者・曺仁柱をかわしたときの展開に似ていたからである。後で李は「プーンサワットの強いプレッシャーに、何度も心が折れそうになった」と告白したが、そのくせ試合中はそんな苦しさをおくびにも出さず、飄々とタイの王者の強打をかわし続け、徳山に続く在日のヒーローとなった。

 徳山は「僕の目に見えない武器は、相手の長所を殺して勝つこと」と豪語したが、まさに李がこれを受け継ぎ、緩急自在のボクシングでプーンサワットをキリキリ舞いさせたのである。今の時代、28歳はまだ若い。今後、変幻自在の戦法に磨きをかけ“徳山超え”を目指してほしい。

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