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32歳でジャパン初選出、
逆境をバネにする男・田邉。
~遅咲きのフルバックの武器とは~ 

text by

大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

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photograph byNobuhiko Otomo

posted2010/10/29 06:00

32歳でジャパン初選出、逆境をバネにする男・田邉。~遅咲きのフルバックの武器とは~<Number Web> photograph by Nobuhiko Otomo

“腕試し”で毎年TOEICを受けるという。「ぶっつけで受けて780~790点くらい」

「僕、何かマズいことしました?」

 飯島均監督からの着信表示を見た田邉淳は、携帯電話をかけなおすと、恐る恐る切り出した。「監督から電話なんて、滅多にかかってきませんから」

 だがそれは、今秋サモア、ロシアと対戦する日本代表に選ばれたことを知らせる、祝福の電話だったのだ。

「テスト生みたいな形で三洋にきて、決して順風じゃなかったけど努力を重ねてここまで来た。身体が小さくてもやれる。ラグビーやってる人間の鑑です」

 田邉の代表入りについて聞かれた飯島監督は、目を少し潤ませて答えた。田邉は昨季のトップリーグ得点王で、ベストフィフティーンも2度受賞。身長170cmと小柄ながら日本最高のFBでありゴールキッカーだが、その経歴は異色だ。

2011年、第2の母国NZでのW杯出場を目指す。

 奈良に生まれ、4歳からラグビースクールに通った田邉は、15歳の春に単身NZへ渡った。父・淳雄さんの「英語とラグビーが両方身につくぞ」という勧めを受け、最初は1年だけのつもりで留学。しかしNZと日本の高校で単位の振り替えが効かず、「日本に戻って留年するのなら」とNZ残留を選択。高校、大学を卒業し、日本人タレントが経営する土産店でバイトしながらクラブでプレーを続け、留学に来た選手と知り合った縁からテストを受け、三洋入りしたのが24歳の秋だった。それから8年、32歳にして念願の日本代表入り。来年は第2の母国NZでW杯が開かれる。ただし、そこにたどり着くには、身体が大きく足も速く、若いFBたちとの競争を勝ち抜かねばならない。それでも田邉は前向きだ。

「テストマッチは、何かひとつ図抜けていれば上手くいくわけじゃなく、スキル、運動量、ディフェンスの判断力、周りへの指示……すべてがマルチに求められる世界だと思う。それに、今は代表に外国人が多いし、英語と日本語を両方使えることも僕の強みになるかも」

 実はこの春も代表スコッドに入りながら、実際の試合には招集されなかった田邉は指揮官カーワンに電話をかけ、落選理由を直接尋ねた(その行動力と英語力も今回代表選出の一因か)。世界に出ればギリギリの戦いを強いられる日本代表にとって、田邉が海外生活で鍛えた、逆境を突破する力は頼もしい武器。今秋のテストシリーズは、遅咲きのFBに注目だ。

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