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“歴戦の勇士”坂田健史は、
なぜ亀田大毅に完敗したのか? 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2010/09/27 12:07

“歴戦の勇士”坂田健史は、なぜ亀田大毅に完敗したのか?<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

接近戦でもアウト・ボクシングでも、亀田大毅は積極的に戦い試合の流れを作り続けた。完璧な作戦勝ちだった

 真後ろに陣取るボクシングファンが声をからしていた。序盤、坂田が攻勢の場面を作ると、一団の声援がひと際弾んだ。

  「レベルが違うよ!」

  「キャリアが違うんだ!」

 彼らの脳裏には坂田健史の歩みが刻まれていた。1999年の全日本フライ級新人王獲得。2001年の日本タイトル奪取と通算5度の防衛。'04年から始まる世界挑戦と3度の失敗。そして4度目の挑戦にして悲願のベルト戴冠。決して才能に恵まれたわけではない。ひたすら愚直に、不器用に、そして正当にキャリアを重ね、亀田兄弟が協栄ジムに移籍した際は、名もなき「世界ランカー」として引き立て役を務めさせられた。それでもなお、愚痴をひとつもこぼさなかった坂田が、新人王にも日本タイトルにも背を向け、飛び級で桧舞台に立ったボクサーに負けていいはずがない。彼らの叫びにも近い声援には、そんなやるせない感情が込められていたのだ。

 しかし、試合開始当初こそ威勢の良かった坂田ファンの声援は徐々に力をなくし、試合終了のゴングが鳴るころには絶望的な空気に包まれてしまった。

  「負けはないよな……」

  「どうかな……」

 心情的に坂田サイドに立つファンでさえ、負けを認めざるを得ない試合だった。

亀田陣営が立てていた、完璧な試合のシミュレーション。

 21歳と若い亀田大毅は上り坂にあり、パンチのスピードや体のキレで坂田を大きく上回った。そして何より、坂田を研究し尽くし、入念に展開をシミュレートして試合を組み立てた事実は見逃せない。

 試合の参謀役を務めた亀田家の長兄、興毅が弟に代わって解説した。

「試合が決まってから、坂田選手のいろんなテープを見て家族で作戦を考えた。とにかく動いて相手に手数を出させないこと。それがこの試合のテーマだった」

 元世界王者の長所を全力で消すべし。赤コーナーの立てた作戦を集約するとこの一点に尽きる。瞬発力に乏しい坂田は一発のパンチ力がなく、遠い距離からスピード感あふれるパンチも打ち込めない。だから常に相手にプレッシャーをかけ、長雨が滴り落ちるようにコツコツとパンチを打ち続ける。気の遠くなるような作業を粘り強く繰り返してペースを掌握し、終盤に圧倒するというスタイルを勝ちパターンとしていた。

【次ページ】 試合の流れに合わせて次々とシフトチェンジする大毅。

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