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船大工の技術が凝縮した、マホガニー製ロードレーサー。~木の反発力を生かした高性能自転車~ 

text by

高成浩

高成浩Seikoh Coe(POW-DER)

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photograph byTomoki Momozono

posted2010/09/15 06:00

船大工の技術が凝縮した、マホガニー製ロードレーサー。~木の反発力を生かした高性能自転車~<Number Web> photograph by Tomoki Momozono

 新木場に、変わった自転車を作る職人がいる。その名は佐野末四郎。江戸時代から続く造船所の9代目である。

 13歳から木造船を造り続けてきた佐野が、造船技術を活かして作ったもの、それがこの“木製ロードレーサー”だ。

「趣味でロードレーサーに乗っていたところ、高性能と言われるカーボンバイクのフレームが硬過ぎることに閉口しました。もっとしなやかで速いバイクを、マホガニーで作ってやろうと思ったんです」と佐野は語る。

カーボンフレームの欠点を補うマホガニーフレーム。

 ペダルを漕ぐ力をロスなく推進力に変換するため、有名ブランドのロードレーサーのフレームは硬く作られている。ところが、そういうフレームはスムーズなペダリングと鍛え上げられた肉体を兼ね備えたトップアスリートには最適だが、クランクの回転が外側にブレがちな“週イチ・レーサー”には速く走れないばかりか身体を壊してしまうという。

 そこで佐野は、造船技術で培った高度な力学を応用。木が持つ反発力を利用し、ペダリングによる“入力”と“ブレ”を進む力に変えたのである。その効果は実際に乗ってみると、すぐに実感できる。漕ぎ始めはフニャフニャした乗り心地が頼りなく感じるが、スピードが増すに連れて徐々に安定性が高まってくる。そして30km/hほどになると、しなやかで安定感のある走りへと激変。クランクが1回転するごとに、別のパワーが付加されたように加速できるのは、まさしくマホガニーフレームの特徴である。これなら「40km/hも楽勝!」という佐野の言葉に偽りはなさそうだ。

 マホガニーを積層し、分割して中身をくり抜き、再結合することで約7.5kg(完成車)という軽さを実現。ため息が出るほど美しい中空フレームには、佐野の技術と、ロードレーサー作りの夢が詰まっているのだ。

SANOMAGIC MAHOGANY BIKE T2

フレーム結合部には、金属素材を使用せずリム、ハンドル、ボトルホルダー、サドルさえもマホガニー製である。1台作るのに約3カ月かかり、来年まで予約でいっぱい。200万円(税込)。

(問)SANOMAGIC (電話)03-5569-6567

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