野ボール横丁BACK NUMBER

松井秀喜だからこその、国民栄誉賞。
偉大なる「普通人」が果たした親孝行。  

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

PROFILE

photograph byAFLO

posted2013/04/10 11:30

松井秀喜だからこその、国民栄誉賞。偉大なる「普通人」が果たした親孝行。 <Number Web> photograph by AFLO

国民栄誉賞授与が発表された4月1日。試合前のヤンキースタジアムのスコアボード上の画面に、松井の活躍の数々が大きく映し出された。

 日本人はみんな松井秀喜が好きなのだ。

 それが、彼が国民栄誉賞を受賞することになった理由なのだと思った。

 松井というと真っ先に思い出すシーンがある。私があるスポーツ新聞社に入社した1年目のことだった。

 当時、私は横浜ベイスターズ担当だったのだが、オールスターのとき1日だけ「松井番」を任されることになった。

 当時、プロ入り5年目を過ごしていた松井は、すでに押しも押されもせぬスター選手だった。先輩記者はその任に就くに当たり、私を松井に紹介した。今にして思えば、わずか1日の臨時担当者をわざわざ選手に紹介するものでもない。先輩記者は松井だから紹介したのだ。より正確に言うと、できたのだ。

 その理由は直後にわかった。私がガチガチになって松井に名刺を差し出すと、松井はそれを両手で受け取り、こう言ったのだ。

「こちらこそ。よろしく」

 驚いた。プロ野球という世界は、そんな「普通」に滅多にお目に掛かることはできない世界だ。

 それだけに松井の振る舞いは驚愕に値した。

自分が好きだと思ったことから逃げないこと。

 もうひとつ忘れられないエピソードがある。

 2009年11月、ワールドシリーズでMVPを獲得した翌日のことだった。

 幸運にもインタビュー機会を得た私は、松井にこんな質問をした。夢を実現するために小さな子どもたちに言葉をかけるとしたら――。

 松井はじっと考え込んだあと、こう言った。

「……逃げないことじゃないですか。好きだと思えることからは」

 誰でも言いそうなセリフだった。だが前日の晩、松井の活躍でヤンキースがワールドシリーズのチャンピオンになった酔いがまだ残っていたのか、松井が感情を抑えながらボソッと発言した言葉に胸のあたりが熱くなった。

【次ページ】 彼のコメントはいつもつまらないと思っていたが……。

<< BACK 1 2 NEXT >>
1/2ページ
関連キーワード
松井秀喜
長嶋茂雄

ページトップ