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競馬全盛期の立役者、
オグリキャップ逝く。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byTomohiko Hayashi
posted2010/07/18 08:00
最高の感動を与えた有馬記念。最後までドラマチックな馬だった
まったく見ず知らずの人と抱き合ったことがある。あとにも先にも、そんなことをしたのはその一度きりだ。いつだったかははっきり覚えている。1990年12月23日。時刻は午後の3時半を過ぎたあたり。声を出したことも記憶している。こちらも相手も、「オグリ、オグリ」と叫んでいた。
オグリキャップが最後に勝った有馬記念ほど幸福感にあふれたレースを知らない。オグリキャップの単勝人気は上から4番目。記念に100円だけ持っていた人も多く、大きく儲けた人はいなかったろう。こちらのポケットにもオグリキャップの馬券は1枚も入っていなかった。懐は痛い目に遭ったのに、声をからして損をさせた主の名前を叫ぶ。考えてみれば不思議なことだ。しかし、損得を忘れ、みんなが叫んでいた。