WBC 侍ジャパンの道BACK NUMBER
足で勝って、足で負けた侍ジャパン。
あの8回裏の重盗シーン、全真相。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2013/03/19 12:10
「連覇してくれた選手の方々もいらっしゃいましたし……そういうものを全部、自分が止めたような気がして申し訳ないです」と責任を全部ひとりで背負うようなコメントを残した内川。
その瞬間に三塁側の日本ベンチはもちろん、スタンドの日本応援団、そして記者席も一瞬声を失ったような沈黙が流れた。
準決勝のプエルトリコ戦の土壇場に起こった痛恨のミス。1-3と2点差としてなお1死一、二塁で一塁走者の内川聖一が飛び出してアウトになったプレーは、ある意味、今回の日本代表の強さと脆さを象徴するようなものであったように思う。
苦戦した1次ラウンドのブラジル戦、2次ラウンドの台湾戦と、この8回から試合が動いて、日本に逆転への道は広がっていた。
もう一度、問題の場面を整理してみよう。
3点を追う8回。
当然、ファンだけではなく日本ベンチも再びの逆転劇を意識してこの回を迎えたはずだった。
そして1死から鳥谷敬が右中間に三塁打を放って、いやが上にも逆転ムードは高まった。そのムードが井端のタイムリー、内川聖一の右前安打と続いてさらに膨らんでいく。
そんな場面で起こったのが、あの走塁ミスだったわけだ。
山本監督、緒方一塁コーチャーは……何のサインを出していた?
打席の阿部慎之助の2球目だ。
二塁走者の井端が一瞬、スタートを切りかけたが、すぐに走るのを止めた。しかし、一塁走者の内川は猛然と二塁を目がけて突進し、二塁ベース手前で気づいたときには、2人の走者が塁上で鉢合わせしそうな状況になっていた。
捕手のヤディエル・モリーナが内川を二塁に追い込んでタッチ。膨らみかけた逆転の風船は、これで一気に萎んでしまった。
「重盗にいってもいいというサインがあって、少し井端のスタートが遅れた」
こう振り返ったのは山本浩二監督だった。
果たしてここで何が起こったのか?
首脳陣と選手の証言を改めて整理してみると、こんな“事実”が浮かび上がってくる。
「グリーンライト(盗塁をしても良い許可)ではなく盗塁(必ずしろ)のサインでした」
こう話すのは一塁コーチャーの緒方耕一外野守備走塁コーチだった。このサインを井端はこう説明する。
「この球、じゃなくて行けたら行け、だった」