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準優勝でもひと際光った、
李娜の笑顔とユーモア。
~テニス全豪、もう一人のウィナー~ 

text by

秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

PROFILE

photograph byHiromasa Mano

posted2013/02/15 06:00

転倒した拍子に後頭部を打った李娜。固唾を呑んで見守る周囲の不安を笑顔で打ち消した。

転倒した拍子に後頭部を打った李娜。固唾を呑んで見守る周囲の不安を笑顔で打ち消した。

 2度の転倒にもめげず、李娜は全豪の決勝を戦い抜いた。表彰式では、トレードマークとなったくしゃくしゃの笑顔を見せた。優勝はならなかったが、彼女もまた大会のウイナーだった。

 ビクトリア・アザレンカと争った決勝の第2セット、李娜は左足首をひねって転倒。テープで固めて試合を続けたが、踏ん張りがきかず第3セットに2度目の転倒、後頭部を打ちつけた。大事に至らなければいいが、とその場の全員が固唾を呑む。その時、スタジアムの巨大画面に彼女の大きな笑顔が映し出された。

 試合後、本人がいきさつを説明した。

「一瞬、目の前が真っ暗になった。フィジオに(打撲の影響を見ようと)『指の動きを目で追って』と言われたけど笑ってしまったの。病院みたいだったから」

 その笑顔に観客は胸をなで下ろしたが、次第に動きが悪くなり、優勝を逃す。

李娜の笑顔が、女王アザレンカの「失態」をも帳消しに。

「転ばなければ違う筋書きになっていたでしょう。ただ、転んだという事実は変わらない」

 敗者は潔く結果を受け入れた。そして、ユーモアを忘れなかった。

「転んで目の前が真っ暗なのに笑っていられるのは、私くらいのものでしょうね」

 彼女は昨年夏から、ジュスティーヌ・エナンを7度、四大大会優勝に導いたカルロス・ロドリゲスコーチに師事している。新コーチは猛練習を課すとともにメンタル面の改善を図った。「前の私はコートに出てきた時から怒っていたけど、今は違う」と李娜。前向きな試合態度は努力の成果だとしても、もともと明るい性格だ。コート上でのインタビューも会見も、常に笑いに包まれる。コーチの厳しい指導をぼやき、献身的に尽くす夫の話題で笑いを誘う。英国の女子選手ヘザー・ワトソンはツイッターにこう書いた。

「李娜は楽しい人。ユーモアのセンスがある。彼女のインタビューは大好きよ」

 李娜は女王アザレンカの「失態」をも帳消しにした。準決勝でアザレンカは、あと1ゲームで勝利という場面でタイムアウトをとり、物議を醸した。背中の痛みが原因だったが、5本のマッチポイントを逃した直後であり、結果的に10分間も待たせたため、相手の勢いをそぐ意図はなかったかと会見で追求されたのだ。大会の山場に水を差す女王の失点を李娜の笑顔が補った。おかげで、閉幕後の大会の印象は数段明るいものとなった。

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