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“世紀の誤審”を拍手に変えた
ガララーガの言葉。
~MLB発“世紀の美談”の顛末~ 

text by

四竈衛

四竈衛Mamoru Shikama

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photograph byYukihito Taguchi

posted2010/06/17 06:00

完全試合は逃したが自身初となる完封勝利をあげ、ア・リーグの週間MVPに選出された

完全試合は逃したが自身初となる完封勝利をあげ、ア・リーグの週間MVPに選出された

 全米中が、声を失った。6月2日。タイガースのアルマンド・ガララーガ投手は、インディアンス相手に9回2死までパーフェクト投球を続けていた。観客が総立ちの中、27人目の打者を一塁ゴロに打ち取り、ベースカバーに入ったガララーガは、確かに走者より先にベースを踏んだ。ところが、一塁塁審のジム・ジョイス氏は両手を広げ、「セーフ」をコール。その瞬間、史上21回目、今季3人目となるはずだった偉業が、歴史の中から消えた。

ホワイトハウスの定例会見で報道官も話題に。

 近年、大記録が達成されそうになると、米国の野球中継は臨時映像に切り替わる。球場によっては、巨大スクリーンで映し出す場合もある。この日も、そうだった。「世紀の誤審」は、一瞬にして、動かしがたい事実として全米に伝わった。

 試合後、メジャー審判歴22年目のジョイス氏は誤審を認め、ガララーガに直接謝罪。だが、マスコミをはじめ周囲は黙っていない。テレビは誤審映像を流し続け、新聞には「完全犯罪」の見出しが躍り、ホワイトハウスの定例会見では報道官が話題に出すほどだった。ジョイス氏が住むオハイオ州では、同姓同名の別人、ジム・ジョイスさんの自宅に、中傷やいやがらせの電話が数十件もかかり、電話番号を変えざるを得なくなったという。

「彼の方が気分が悪いはずだから」とガララーガ。

 そんな状況を救ったのが、ガララーガだった。試合直後は、不平不満をこぼすどころか、柔和な笑顔で謝罪を受け入れ、ジョイス氏の胸中を思いやった。「僕以上に、彼の方が気分が悪いはずだから」。翌日の試合前には、メンバー交換に姿を見せ、涙を拭うジョイス氏と固い握手を交わしたのである。デトロイトのファンのブーイングは、その後、徐々に拍手に変わった。

 勝敗を分ける1球、プレーだからこそ、監督や選手は納得できない判定にエキサイトし、時には暴言も吐く。今回の誤審騒動で、現在は本塁打の確認だけに限られているビデオ判定の拡大についても議論されることになった。ただ、米国球界の根底には「だれもがミスはする」との考えがある。と同時に、審判団に対して、球界の仲間としての意識が強い。

「完璧な人間なんていないよ」

 たとえレコードブックから消えても、ガララーガの名前は、ファンの心に、深く刻まれたに違いない。

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