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決して飽きることがない
大リーガーのイチロー。
~10年分のインタヴューを読んで~
text by
向井万起男Makio Mukai
photograph bySports Graphic Number
posted2010/05/23 06:00
『イチロー・インタヴューズ』 石田雄太著 文春新書 952円+税
昔の大リーグでは、マスコミに対して特異なスタンスを持つ選手が今より遥かに多かったと思う。
たとえば、“最後の4割打者”テッド・ウィリアムズ。しょっちゅうマスコミと悶着を起こしていた。悶着を起こすのが好きなんじゃないかとさえ思えるほどに。現役時代にマスコミとうまくいっていた時期などなかった感じがしてくるくらいだ。さらにユニークなところでは、スティーブ・カールトン。通算勝利数329も通算奪三振数4136も左腕としては史上2位という投手だが、現役時代、8年間にもわたってマスコミに対して一言も口をきかなかった。そうそう、テッド・ウィリアムズもスティーブ・カールトンも「野球の殿堂」入りを果たしているから面白い。やっぱり、肝心なのはマスコミとの関係ではなく実績なわけだ。
今の大リーグでは、妙に優等生的なスタンスでマスコミと接する選手が多いように思う。特異なスタンスを持つ選手もいることはいるが、「野球の殿堂」入りの可能性があるほどの選手となるとグッと少なくなる。まぁ、それほどの選手でもないのに特異なスタンスを持ったりすると滑稽なだけと思うけど。
イチローは、変幻自在の天然記念物的大リーガー。
ここでイチロー。
イチローほど興味深いというか、面白いというか、わけわかんないスタンスでマスコミと接している大リーガーはいないのではないか。こんな大リーガーは昔もいなかったと思う。で、天然記念物的大リーガーとさえ言える。
まず、ヤケに厳しい顔で黙っているので怖いオニイサンだなぁと思っていると、突然、ヤケに厳しい顔のまんま口数が多くなったりする。はたまた、ヤケに陽気な顔ではしゃいだように喋りまくったりもする。ホントに変幻自在で、見ていて決して飽きることがない。
次に、イチローの話す内容。これがまた凄い。“チョットチョット、それって本気で話してるの? オレたち素人をおちょくってるだけなんじゃないの?”ということもあるし、“そんな難しい打撃理論を言われても良くわかんないから勘弁してよ”ということもあるし、“アレ、あのイチローが普通の人っぽいこと話してるけど、どうしちゃったんだろう?”ということもあるし、“アッ、生中継なのにそんなこと言っちゃってイイのか!?”と心配になってくることもある。ますますもってホントに変幻自在で、聞いたり読んだりしていて決して飽きることがない。