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孤高の競技者・室伏広治の告白――。
ロンドンとハンマー、そして人生。 

text by

藤森三奈

藤森三奈Mina Fujimori

PROFILE

photograph byAsami Enomoto

posted2012/06/29 10:30

孤高の競技者・室伏広治の告白――。ロンドンとハンマー、そして人生。<Number Web> photograph by Asami Enomoto

6月初旬に開かれた日本選手権の男子ハンマー投げで、堂々の18連覇を達成した室伏広治。いったいいつまで連覇が続くのか……予想もつかないほどの圧勝劇。

「室伏広治」と聞いてあなたが抱くのは、孤高、ストイック、近寄りがたいなどベールに包まれたようなイメージだろう。本当は笑顔が印象的で、周りを一遍に明るくするようなポジティブなオーラを発していること、そして自分に関わる人への気遣いを何より優先する人物だといったら驚かれるだろうか。

 彼がこれまで、ハンマー投という競技に関することを饒舌に語ってこなかったことにもその原因はある。競技生活は長いが、毎年限られたほんの数日のオフで受ける取材の数は限られている。自分を知ってもらう時間は十分にあったとはいえない。また自身も、語るときではない、とこれまでは考えていた。

 自分の考えを述べたい、それを書籍としてまとめたい、そう思うに至ったのは3年前のことである。それから、彼はゆっくりと時間をかけてこれまでの歩みを語り始めた。長い長いインタビューが終わったのは昨年末。今年に入って書籍化への作業が始まったが、それはオリンピックへの準備期間とも重なった。周囲がそれを心配するそばで、本人は、「これもオリンピックへの準備のひとつになる」と言った。「自分のことを振り返り整理すること、それはアスリートとしての活動の一環である」と。

 3度のオリンピック出場、36歳で世界選手権金メダルという偉業を成し遂げた室伏広治に揺らぎはない。多くの人の支え、教えがあって彼は幾多のものを乗り越えてきた。『超える力』には、“知られざる”アスリート、室伏広治の本来の姿が現れている。

何かを極めようとしている人や、若いアスリートに読んでもらいたい。

 室伏は、2012年6月上旬、4カ月以上に及ぶアメリカ・サンノゼでのトレーニングから帰国し、見事に日本選手権18連覇を果たした。その直後に初の自著を手にし、インタビューに応じてくれた。

――この本には何が書かれていますか。

「ようやく形になってほっとしています。この本には、私の競技生活を通して得た知識や経験したことが書かれています。この本のタイトル『超える力』の通り、成績を残すことも大事なのですが、どのように乗り越えてそこに到達したのか、それが書かれています」

――どういう人たちに読んでもらいたいですか。

「すべての人に読んでもらいたいですが、特にこれから何かを極めようとしている人や若いアスリートに読んでもらいたい。ちょっと躓いて伸び悩んでしまっていたり、スランプを抱えている方に少しでも何か力になれるような本になればいいなと思っています」

【次ページ】 躓き悩み、幾度ものスランプを乗り越えてきた室伏。

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