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<気高きドラゴン、栄光と葛藤の日々> 久保竜彦 「自分でしょぼいと思ったら終わりよ」 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

PROFILE

photograph byMami Yamada

posted2012/06/29 06:01

<気高きドラゴン、栄光と葛藤の日々> 久保竜彦 「自分でしょぼいと思ったら終わりよ」<Number Web> photograph by Mami Yamada
ドイツW杯予選オマーン戦のロスタイムの決勝弾、
欧州遠征で強豪チェコを下した衝撃的なゴール。
記憶に残る得点を量産したストライカーは、
今年、静かにユニフォームを脱いだ。
口下手な男が語る、引退、そして日本代表――。

 不慣れでちょっとたどたどしい。

「ゴール前に向かうときはボールから目を離したらダメ……。絶対にいかんよ!」

 広島県、廿日市。海と山に囲まれた自然溢れる町に、日本中の期待を集めながらW杯の舞台を踏めなかった元日本代表、36歳の久保竜彦はいた。4月からNPO法人「廿日市スポーツクラブ」のストライカー養成コーチに就任し、子供たちに愛情を持って教えている。

“ドラゴン”という愛称で親しまれた久保はJFLのツエーゲン金沢から戦力外通告を受け、17年間の現役生活にピリオドを打った。JFL、県地域リーグ、タイのクラブなどからも誘いの声がかかったが、妻と2人の娘が待つ広島へ戻ることを選んだ。

 丸刈り頭、痩身、人見知り、口ベタ……風貌から振る舞いまで現役のころと変わりない。指導を終えたのが午後8時半。20代前半から10年以上乗り続けている国産の愛車に乗り込むと、久保はおもむろに話し始めた。

「去年のシーズン中に、手を骨折したんよ。手なんかプレーするのに関係ないじゃろ? でも痛いのが我慢できんくて、気持ちも上がっていかん。若いころやったら関係なかったのに……。俺、しょぼくなったなと思ったよ。未練はない。やり残したこともないよ」

 そしてひと言つけ加えてアクセルを踏んだ。

「W杯か、まあ行きたかったけどね」――。

W杯予選のロスタイム弾で、一躍全国区となった久保竜彦の名前。

 日本人離れしたスピード、ジャンプ、しなやかさ、そしてうなりを上げてゴールネットに突き刺さるシュート……こんなストライカーらしいストライカーが日本にはいた。いまだその強烈なイメージは残っている。

 もう8年も前になる。

 2004年2月、久保の名前を一躍全国区にしたのが、ドイツW杯アジア一次予選、初戦のオマーン戦だった。満員に膨れ上がった埼玉スタジアム。後半ロスタイムまでスコアレスを続け、スタンドもジリジリと焦燥感が高まっていた。途中出場の久保はチャンスを待ち続け、それはようやく訪れた。ゴール前でフリーでパスを受け、若き守護神アルハブシと対峙する。左足で振り抜いたダフったようなシュートが、日本を救う一発となった。一気にスタンドは熱狂の坩堝と化した。

 あの感触、覚えてる?

 そう聞くと、久保は「ああ」と頷いた。

【次ページ】 チェフをも打ち破った、衝撃の欧州遠征3戦連発。

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