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“策士型”で世界を目指す、
もうひとりの「亀」。
~“芸術”志向のS・ライト級新王者~ 

text by

前田衷

前田衷Makoto Maeda

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photograph byBOXING BEAT

posted2010/05/15 08:00

“策士型”で世界を目指す、もうひとりの「亀」。~“芸術”志向のS・ライト級新王者~<Number Web> photograph by BOXING BEAT

'05年11月のプロデビュー後、無敗のまま日本王座を奪取した亀海(左)は札幌市出身の27歳

 亀……と書いただけで、読者からはうんざりされそうだが、ここで取り上げるのはヒールではなく、クールなほうの「亀」である。

 今季チャンピオンカーニバル随一の好カードと期待された日本スーパーライト級タイトル戦(4月12日)で、王者・小野寺洋介山を9ラウンドでものの見事に倒して新チャンピオンとなった亀海(かめがい)喜寛。“奪冠劇”は衝撃的だった。「ただ勝つのではなく、圧倒的な実力差を見せつけて勝つ」と予告していた通り、パワー、スピード、テクニックで圧倒した。

 初回、2回と切れ味鋭いブローを打ち込み痛烈なダウンを奪う。「なにくそ魂」と驚異の忍耐力で何度も逆転劇を演じてきた小野寺も必死に反撃を試みるが、亀海はノーガードでヒョイヒョイと上体を振ってパンチを外し、殺し、まともに当てさせない。まるで翻弄するかのようだ。

防御で観客を魅了する「マエストリート(小さな達人)」。

 自ら「マエストリート(小さな達人)」と称する亀海は「ボクシングは芸術」と言い切る。とくにディフェンス技術は「高速のパンチで自分を殴ろうとする相手に、それをかわして、自分のパンチだけを差し込んでいくのは芸術だと思う」と持論を展開する。ボクサーを志したのも、同じ北海道出身の王者、山口圭司の防御技術に見惚れてというから変わっている。

 全盛時のアリやレナードは防御でも見る者を魅了した。黒人選手のなかには相手のパンチを鼻先スレスレでかわし、自らの超絶的な「防御技術」(アート・オブ・ディフェンス)に陶酔する者もいる。亀海もこれで楽しませてくれるのはいいが、ラッキーパンチを食う危険もあるからほどほどにしたほうがいい。

「徹底的に頭を使って」KO勝利の山を築く。

 後半に持ち込まれればスタミナ旺盛な小野寺有利という大方の予想も外れた。亀海の的確なブローを打ち込まれ、ダメージを重ねた小野寺に最後の一撃となった右強打。これは我慢の限界を超えていた。痛烈なダウンに主審はノーカウントで試合終了を宣告した。

 アマ王者から「田中繊大トレーナーに教えてもらいたくて」帝拳ジム入り。プロ転向以来、15勝13KO無敗。本人はパンチ力には自信がないというが、高いKO率は「徹底的に頭を使って」のものだ。コアなファンが贔屓にしたくなる策士型ボクサーである。世界となるとこの階級の壁は厚いが、本人も承知の上。さらに“芸術”に磨きをかけてほしい。

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