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皆に愛された元日本代表。
渡邉泰憲よ、安らかに。
~35歳で急逝した東芝のラガーマン~ 

text by

大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

PROFILE

photograph byNobuhiko Otomo

posted2010/05/10 06:00

皆に愛された元日本代表。渡邉泰憲よ、安らかに。~35歳で急逝した東芝のラガーマン~<Number Web> photograph by Nobuhiko Otomo

「ちゃんと投げろっつってんだろ!」

 渡邉泰憲の荒々しい声が響いた。スロワーの猪口拓が、唇を噛んで次のボールを投げる。高く跳んだ渡邉の伸ばした手の先に、今度は見事ボールが吸い込まれる。渡邉は着地と同時に、とろけるような笑顔で叫ぶ。「さすが! お前、ホントはウメェじゃネエかよ」。罵倒から一転、絶賛された猪口の顔がほころび、やる気が漲るのが傍目にも分かる。数年前、東芝の練習で目撃した一幕だ。

 4月3日に35歳の若さで急逝した元日本代表FL渡邉泰憲の訃報を聞いた時、頭をよぎったのはそんな場面だった。

 ピッチに立てば、相手のパンチを浴びても一歩も退かず、ボール争奪戦に身体を張った。ボールを掴めば、192cmの長身を低く折りたたんで相手防御を切り裂き、トライの山を築いた。W杯には'99年から3大会連続出場。'07年のクラシックオールブラックス戦では歴戦の猛者を相手に激しいプレーで渡り合い、黒衣の円陣から「あの6番を潰せ!」の号令まで出た。栄光の場面を挙げればキリがない。だが、記者の頭に残る渡邉らしさは「人たらし」と呼びたくなるあの笑顔だ。

表裏のないまっすぐな明るさはライバルからも愛された。

 東芝が国内最強の座に君臨した秘訣、「親に見せられない」過酷な練習を支えていたのは、渡邉のケタ外れの明るさだったと思う。誰より激しく身体を張り、仲間の失敗には本気で怒り、成功には我がことのように喜ぶ。ベビーフェイスから巻き舌で飛び出す言葉は直球ど真ん中。それが、凄絶なコンタクト練習に明け暮れるグラウンドに活力を運んだ。試合でも、ラインアウトのサインに「変えろ! 読まれてんだぞ!」と大声でダメ出ししてはスタンドの笑いを誘った。裏表のない感情の発露が、ファンも虜にした。

 4月10日の通夜、11日の告別式会場には、東芝や日本代表で同じジャージーを着た仲間にとどまらず、トップリーグを戦った歴代すべてのチームから選手やOBが駆けつけた。日本ラグビーのビッグネームたちが周囲の道路まで溢れた光景は、渡邉がチームの枠を超え、底抜けに愛された証だった。

 頬を膨らませての突進。仲間がトライを決めたときの弾ける笑顔。試合が終わった途端、対戦相手と打ち解けてしまう天性の人好き……。あなたのすべてがラグビーでした。ご冥福を祈ります。

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