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<リーディングジョッキーが語る> 福永祐一 「鞍上鞍下の意思疎通」 

text by

片山良三

片山良三Ryozo Katayama

PROFILE

photograph byKei Taniguchi

posted2012/01/20 06:00

<リーディングジョッキーが語る> 福永祐一 「鞍上鞍下の意思疎通」<Number Web> photograph by Kei Taniguchi
騎手は、もの言わぬサラブレッドの仕草から何を感じ、
いかなる方法で意思を伝え、勝利に導いているのか。
その奥深いコミュニケーションの実際を、16年間の
競馬人生で、いま最高の手応えを感じている男が語る。

 2011年、福永祐一は全国リーディングジョッキーに初めて輝いた。デビュー16年目にして到達した頂きは、1979年に落馬事故で騎手生命を絶たれるまで父・福永洋一元騎手が9年連続で君臨していた場所。その達成感が格別なものだったことは容易に想像できる。

 意外にも「自分は凡才」と言い切る彼が、ゆっくり時間をかけて自分のものにしてきたサラブレッドとのコミュニケーション技術と、自身の競馬人生、そしてその騎乗哲学を語ってくれた。

「騎手にとって、馬とのコミュニケーション能力というのは、メチャメチャ重要です。まず、いい競馬をするには、馬の力を引き出さないといけません。そのためには、馬を支配、制圧して上下関係をはっきりさせて動かす必要がある。でも、気分を損ねられてはダメ。人間に褒めて伸びるタイプと叱られて伸びるタイプがいるように、馬のタイプによって接し方も変えないといけないんです。

 たとえば、ムチで叩いてもダメな馬や叩くと減速してしまう馬がいます。繰り上がりでしたがフサイチパンドラという馬でエリザベス女王杯を勝ったときは、僕は一発も叩いていません。男馬と女馬のどちらかといえば、僕は男のほうには、バシバシ行く。女の子のほうはあんまりキツい操作はせず、気持ち的には、おだてて乗りますね(笑)。

馬は、跨られた瞬間にその人間がうまいか下手かわかる。

 要は、その馬の個性をちゃんと把握して、どういう乗り方をすれば走るかわかった上で、実際に走らせることができるかどうか。そこに、騎手の技量が現れると思います」

 では、実際の「コミュニケーション手段」として、使うのは何か。福永は、馬の背中に直接触れている部分を特に強調した。太腿の内側や膝を使った自然な締め付けである。それを専門用語で「騎座」という。

昨年12月、ジョワドヴィーヴルを駆り、「イメージ通り」の騎乗で阪神JFを完勝

「ハミ(手綱に接続された、馬の口に噛ませる金属製の馬具)も重要なコミュニケーションの道具ですが、なによりも大事なのが、騎座です。進め、止まれはもちろんのこと、方向やスピードを変える指示も、微妙な体重移動と騎座からの圧力、つまりすべて下半身の動きで伝えているんです。馬が跨られた瞬間に、その人間がうまいか下手かわかるというのは、騎座の違いなんですよ。一度でも馬に乗ったことがある人ならわかると思うんですが、初心者は落とされないようにと思うあまり、変に力が入り過ぎてしまうでしょ。馬はそれを瞬時に背中で察知することができる。乗るのが下手なのはすぐにバレてしまうんです。逆に、騎座で馬を完全にコントロールできる人は、力の入れ具合が全然違う。馬はそこで、乗っている人間が言うことを聞かなきゃいけない相手か、自由にしていい相手か、判断してるんだと思います。

 でも、騎座が最初からできる人はそうはいないでしょう。もしいたら、その人こそまさに天才です。競馬学校で3年間みっちりと仕込まれたあとでも、できている人のほうが少ないくらいです。

 こんなことを言う僕にしたって、完全に制圧できる馬が多くなったのは、一昨年くらいからなんです。それからは、事前に思い描いていたレースを実際にできる確率が高くなりました。レースでうまくいく必然性が増したというか、手の内に入っていない馬で思い通りに乗れる確率はやっぱり低いわけですよ。それが成績という形で現れているのがうれしいですね」

【次ページ】 「高過ぎる注目に技量が全く追いついていなかった」

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