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敵意と不協和音の中で沈むレアル・マドリー。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2004/05/06 00:00

敵意と不協和音の中で沈むレアル・マドリー。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 いつからレアル・マドリーはこんなに嫌われるチームになったのか?

 5月1日、リアソル・スタジアムには、「アンチマドリディスタス(反レアル・マドリー主義者)」と書かれた横断幕が広げられた。

 この試合は“予行練習”のはずだった。

 リーグ優勝の望みがないデポルティーボにとっては、3日後に控えたチャンピオンズリーグ準決勝こそが“本番”。だからこそ、イルレタ監督の用意したスターティングメンバーは半分以上が控え選手だった。パンディアニ、バレロン、ビクトル、ナイベットはベンチ入りさえしていなかった。

 しかし、レアル・マドリーへの敵意を剥き出しにした観衆は、気の緩みを許さなかった。選手たちはまるで優勝を賭けた一戦のように戦い、エルゲラを除けばベストメンバーのレアル・マドリーに勝利した。

“予行練習”が“本番”になった伏線には、フィーゴの出場停止を解除した不可解な裁定がある。

 彼はその前のバルセロナ戦でプジョールへのファウルのため退場になっており、出場停止のはずだったが、レアル・マドリーの訴えを受けた上告委員会が、2枚目のイエローカードを取り消したのだ。その理由は、「フィーゴとプジョールにボディーコンタクトがなかったこと」。

 が、これはまったくおかしな判断だ。

 たとえ相手に触れなくても、スパイクを上げて跳び込めば、それだけで警告の対象となるのはルールブックを読めばすぐわかる。プジョールが数メートルも吹っ飛ばされるほど、激しいスライディングタックルだったのにだ。

 なぜルールの専門家たちが、こんな初歩的な過ちを犯したのか? 

 その答えが、“レアル・マドリーが審判に贔屓されている”という陰謀説(詳しくは、前々回の「“レアル・マドリー贔屓”の真相。」を参照のこと)に求められるのに時間はかからなかった。私は陰謀など信じない。が、この裁定は、結果的にレアル・マドリーへの疑惑を深め、イメージを汚し、反感を買う役割を果たしてしまった。そのマイナスはフィーゴ出場のプラスよりも遥かに大きかった、と思う。

 バレンシアとバルセロナファンの後押しを受け、リアソル・スタジアムは、「反レアル・マドリー主義者」の舞台となり、対レアル・マドリーの一戦は、“不正を糾す正義の戦い”に姿を変えた。もともとライバル心のあるデポルティーボが、モチベーションを下げられるわけがない。

「レアル・マドリー主義」とは、超一流の選手を集め、常勝チームを作りあげるという思想だ。ラウール、ロベルト・カルロス、フィーゴ、ジダン、ロナウド、ベッカムが集う、ため息の出そうなチームはそうしてできあがった。

 しかし、そのゴージャスさは、宿命のライバル、バルセロナのみならず、バレンシア、デポルティーボらのファンには、“商業主義で、金の力にモノを言わせた、尊大で権威主義的なクラブ”という受け取られ方をした。もちろん、ここには嫉妬もあるし、どのクラブも資金力があれば同じことをしただろう。が、フロレンティーノ会長が就任し、スーパースターとタイトルをコレクションするようになったここ数年、反発は強まっているように感じる。王者レアル・マドリーへの尊敬は、急速に失われているような気がしてならない。

 そんな敵意に包囲されては、誰もが平常心を保てない。パボン、フィーゴ、ジダンの3試合連続の退場は、選手たちがナーバスになっている証拠だろう。

 ジダンは、疲労が蓄積し体が動かない自分への苛立ちをコントロールできなかった。2点目のフリーキックは自らの壁の配置ミスから失点したのに、チームメイトに責任を転嫁していたカシージャス。彼のディフェンス陣(特にグティ、パボン)への不信は、もう埋めようがないようだ。

 紳士ベッカムも例外ではない。ボールを奪えない屈辱感から、カッとして相手の足を蹴りイエローカードをもらっただけでなく、審判に無意味な抗議を続けた。交代させられた時には、ケイロス監督に何やら口走ったが、本人はすでにハーフタイムに途中交代を予告されていた、という。この1点リードされた状況でベッカムは下げても、ディフェンダーに代え、フォワードのポルティージョを投入する勇気はなかった采配。ベッカムならずとも不満が出ようというものだ。同じマンチェスター・ユナイテッドにいたケイロスが監督に就任し、日本のメディアに“ベッカムシフト”などと呼ばれた去年の夏が、遠い昔のことのようだ。 不協和音は、フロントへも広がっている。

 ケイロスの「ジダンたち、パボンたち」という補強方針への不満。その延長線上にはフロレンティーノ会長とホルへ・バルダーノ、スポーツディレクターとの対立がある。シーズン終盤にツケが回ってきた、アジアツアーによる調整不足とレギュラー酷使の無策。放り出したミリート、サビオ(ともにサラゴサ)、モリエンテス(モナコ)にはキッチリ復讐をされた。もし、3位バルセロナに抜かれれば、チャンピオンズリーグの予選が免除されず、今夏のアジアツアーは縮小を余儀なくされる。そして、そのツアーの時期に、ロベルト・カルロスとベッカムは、果たして白いシャツを着続けているだろうか?

 それでも……。

 スタジアムは満員、「ベッカム様~!」という嬌声は尽きず、シャツは売れまくる皮肉。バルセロナ戦とデポルティーボ戦では、シュートがことごとくゴールマウスに嫌われ、運にも見放された。内と外から揺さぶられる今のレアル・マドリーに、上昇の気配は見えない。

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