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「松井稼頭央の守備は大リーグ失格」の嘘。 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2005/12/01 00:00

「松井稼頭央の守備は大リーグ失格」の嘘。<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 前回、エラーの数や守備率で守備力を評価することの愚を論じた。では、なぜ、エラーの数が伝統的に守備力の評価として使われてきたかというと、「エラーは目立つ」ということがその最大の理由ではないかと、私は思っている。

 たとえば、昨季、メッツの新遊撃手としてエラーを「連発」、今季、二塁へのコンバートを余儀なくされた松井稼頭央、確かにエラー数23はナ・リーグ遊撃手中2位(フルシーズン換算では34で1位)で、「エラー王」と言われてもしかたのない成績だった。しかし、アウト寄与率(9イニング当たりの刺殺数と補殺数の和)で見た場合、松井の4.75はナ・リーグ遊撃手中3位であり、並み以上の数のエラーをしたのも事実だが、アウトの数も、並みの遊撃手以上に稼いでいたのである(図)。

 松井と反対に、昨季、ナ・リーグのレギュラー遊撃手中、フルシーズン換算のエラー数が一番少なかったのは、ジミー・ロリンズ(フィリーズ)の10だったが、ロリンズのアウト寄与率4.01はリーグ遊撃手中最低だった。162試合にフル出場して、毎試合9イニング守備についたと仮定した場合、1シーズン全体で稼ぐアウト数は、松井の769個に対し、ロリンズは649個にしか過ぎなかったのである。

ナ・リーグ遊撃手アウト寄与率

 両者のシーズン当たりのエラー数には、確かに24の差があったが、シーズン当たりで稼ぐアウトの数は松井の方が120も多かったのである。エラーの差の5倍もアウトを多く稼いだのだから、エラーの損を補って余りある貢献をチームに対してしたと思うのだが、ロリンズが「ゴールド・グラブ級の名手」と称賛された一方で、松井の守備は「大リーグ失格」と腐されたのだからこれほど不公平な話もなかった。では、なぜ、こんな不公平がまかり通ったかと言うと、何よりかにより、「エラーは目立つ」からに他ならない。

 さらに、松井にとって不運だったのは、有望若手選手と注目されていたホセ・レイエスを押しのけて遊撃の守備位置を与えられたことだった。松井のエラー数が増えるたびに、メッツ・ファンの間に「なぜ、レイエスをコンバートした?」とチームの方針に対する批判が高まったのだが、チームの方針に対する批判までもが松井へのブーイングに加わることになったのだから、松井には可哀相だった。

 今季、松井が二塁へコンバートされたのも、「松井の守備は大リーグで通用しないのだから、レイエスを遊撃へ戻せ」というファンからの圧力が高まった結果だったが、はたして、遊撃に戻ったレイエスのフルシーズン換算エラー数は18と、昨季の松井の34に比べて大きく減り、メッツ・ファンは「松井からレイエスに換えてよかった」と大いに満足したのだった。

 しかし、レイエスのアウト寄与率4.28はリーグ・レギュラー遊撃手14人中9位にしか過ぎず、稼ぐアウトの数は、松井よりもはるかに少なかった。フルシーズン換算のアウト数で比較すると、昨季の松井の769個に対し、今季のレイエスは693個と、松井より1割(76個)も減ったのだが、メッツ・ファンは「松井からレイエスに換えてよかった」と喜んでいるのだから、どうしようもない。では、なぜ、遊撃の守備が悪くなったのに、ファンは「守備がよくなった」と喜んでいるのかというと、それもこれも、「エラーは目立つ」からに他ならないからなのである。

 さて、二塁にコンバートされてしまった松井だが、今季のアウト寄与率4.73は他の二塁手と比べると決して高い数字ではなかった。しかし、今季ホワイトソックスに加わった井口のアウト寄与率4.69(ア・リーグのレギュラー二塁手8人中7位)とほぼ同等の数字であったことを考えれば、「急造二塁手としてはよくやった」と思うのだがどうだろう。

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