MLB Column from WestBACK NUMBER

メジャーを蝕むドラッグとの戦い 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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posted2005/11/28 00:00

メジャーを蝕むドラッグとの戦い<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 先日ミルウォーキーでオーナー会議が開かれ、セリグ・コミッショナーが提案していた新しいステロイド違反措置が満場一致で採択された。これにより、12月上旬に行われる選手会執行委員会の会議で承認されれば、来シーズンから施行されることになる。今年3月にマグワイア、ソーサらを招集しての連邦大陪審での公聴会にまで発展し、全米中の注目を集め続けたメジャー球界のステロイド問題は、ようやく解決の方向に向かうことになった。もちろん世論や連邦政府からステロイドに関する嫌悪感を表明されては、改革に消極的だった選手会も承認するしかない状況だ。

 野球がオリンピックの公式種目から消える一方で、来年3月に野球史上初の国際大会「ワールド・ベースボール・クラシック」開催に漕ぎつけたメジャーリーグだが、これまでも世界戦略を標榜してきた割には、ステロイド問題に関しては遅きに失した感は免れない。1998年にマグワイアとソーサによるマリスの年間本塁打記録更新で盛り上がる一方で、その時マグワイアが服用していた筋肉増強剤「アンドロスタジオン」が問題になったのはご記憶のことだろう。元々国際オリンピック委員会など国際的に禁止されていたドラッグをメジャーリーグが公認していたこと自体が可笑しかった話で、現在の選手会や選手たちを悪者扱いする風潮は多少納得できないところもある。もっと以前から機構側が厳格な姿勢で取り組むべきだったのではないか。

 とはいえ、今回オーナー会議で採択された新規則では、ドラッグテストで陽性反応が出た選手に対し、1回目は50試合の出場停止処分で、2回目は100試合、そして3回目で永久追放処分という厳しいもの。1回目が10日間の出場停止処分で、2回目が30日間、3回目が60日間──という現行の規則とは明らかに違う。これでメジャー球界からドラッグが追放される方向に進むだろう。だが規則を厳格にしたからといって、単純にすべてが解決するとは思って欲しくない。

 その1つが、選手に対する徹底したドラッグ教育だ。今シーズンを例にとっても、前述の公聴会に出席していたパルメイロをはじめ12選手に陽性反応が出て、10日間の出場停止処分を受けている。多少“灰色”の部分は残るものの、もちろん全選手がドラッグ使用を否定している。彼らの主張は「自分の使っているサプリメントに何が含まれているのか、まったく知らなかった」というのが大半だ。これはこれでかなり信憑性がある。

 長年メジャーの取材を続けて実感するのは、現在のメジャー球界でサプリメントを使用していない選手は皆無に等しいということだ。各選手のロッカーには様々なサプリメントが並んでいるのは当たり前の光景だし、今年レッドソックスの主将を務めたバリテック捕手などは、試合後サプリメントを水で溶きながら我々メディアの質問に答えてくれたりもしたものだ。だからといって、選手たちがサプリメントの成分をきちんと把握している選手がどれだけいるのか疑わしい。特にメジャー選手以上にマイナー選手において、その状況は深刻な気がする。

 「マイナー選手は(ドラッグに関して)何にも知らないですよ。特に中南米系の選手は、母国にいる頃からただ与えられたサプリメントをそのまま使用しているだけですからね」

 今年マイナーリーグで働いていたある日本人トレーナーが話してくれたとおり、今回確実な数値を調べることができなかったが、今シーズン出場停止処分を受けたマイナー選手の数は12人をはるかに上回っていた。その1人にホワイトソックスのマイナー組織にいた養父投手も含まれている。

 もちろん選手会は新規則施行前に、徹底的な教育が行われるだろう。しかし彼らの管轄はあくまでメジャー契約選手のみ。マイナー選手は“蚊帳の外”の存在なのだ。現状のまま新規則が施行されてしまえば、少なくないマイナー選手が選手生命を絶たれる危機に陥る不幸も否定できないだろう。

 オーナーたちが本当の意味で球界からドラッグを追放したいなら、これから本腰を入れて各チームが足並みを揃えて、選手たちのドラッグ教育を終始するべきだし、それは契約選手のみならず、彼らが中南米に所有するベースボール・アカデミー等でも徹底すべきだろう。

 ある意味、マグワイア、ソーサ、パルメイロらは、機構側の曖昧な姿勢が生み出した“被害者”だったのかもしれない。今後彼らのような存在を生み出すような二の轍を踏んではならない。この新規制は、自らが標榜する野球の世界戦略に必ず結びつくものだ。

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