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日本代表なのに主役がフォワード!?
岡崎の9年ぶり代表ハットトリック。 

text by

二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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photograph byNaoya Sanuki

posted2009/10/09 15:30

日本代表なのに主役がフォワード!?岡崎の9年ぶり代表ハットトリック。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

 岡崎慎司に風格が漂ってきた。

 清水エスパルスの本拠である日本平のスタンドは、試合後も岡崎の応援歌が続いていた。

 日本代表の国際Aマッチでハットトリックを達成したのは、2000年10月アジアカップレバノン大会、ウズベキスタン戦での西澤明訓、高原直泰以来、実に9年ぶり。格下の香港が相手だったとはいえ、代表戦のハットトリックというものが、簡単でないことがよく分かる。

 真っ先にミックスゾーンに姿を現した犬飼基昭会長は、「ダブルハット狙えたんじゃない?」と冗談っぽく話した後でこう言った。

「自信がついてきていますよね。彼の動きを、周りがよく分かっている。周りとのいい信頼関係ができている」

MFとの信頼関係を築いた岡崎が、パスの主導権を握る。

 岡崎のところでことごとくチャンスになった。香港のザルのような守備だけが、その要因ではなく、むしろ、彼の動き出しのうまさや、ポジショニングが光ったと言っていい。犬飼会長が指摘したように、岡崎に対する周囲の信頼が見えた試合だった。

 大量得点の口火を切った前半18分のゴールは、長谷部誠のスルーパスに反応して裏に抜け出したものだ。このとき、岡崎は長谷部とアイコンタクトしている。「W杯に出る相手なら、絶対にあそこでフリーにさせてもらえない」と長谷部は控えめに語るが、2人の狙い、呼吸が合致していたことに意味がある。長谷部だけでなく、パスやクロスが出てくるタイミングで、常に岡崎は出し手とアイコンタクトしていたという。

 この味方との“駆け引き”をみて、岡崎に成長の跡を感じることができた。6月のW杯最終予選ぐらいまでは、どちらかと言えばパスの出し手のほうに合わせるように動いていた印象があった。しかし、オランダ遠征を経て迎えたこの香港戦では違っていた。主導権が岡崎にあることも多くなっているのだ。ここにボールを出してくれ、と言わんばかりに、手を挙げてボールを要求するシーンが何度も見られた。

ようやく始めた“自己主張”で、岡崎は再び進化した。

 試合後、岡崎はその“変化”についてこう語った。

「自分が動き出さないと、(周りは)見てくれないので、最初に(代表に入ったときと)比べれば、大きく変わっているかもしれません。周りがうまいからといって周りに合わせていると、自分のプレーにならないし、相手にも読まれてしまう。自分から動き出さないといけない」

 昨年10月、UAE戦でA代表デビューを果たして1年。周囲との連係は随分と深まった。岡崎は味方の特徴を分かって動き出し、パスの出し手も岡崎の特徴を分かっている。そこに、FWとしてはこれまで欠いていた“自己主張”が加わったことで、この日のハットトリックが生まれたように思えてならない。

【次ページ】 W杯レベルでの戦いを意識した“判断スピード”の向上。

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