早く、早く。まだか、おいっ!
ベンチにいるスタッフと控え選手はもちろん、ベンチサイドのチーム関係者も、両手を拡げて試合終了をアピールする。湘南ベルマーレの11年ぶりのJ1昇格は、ついにカウントダウンへ突入していた。
死地からの力強い生還だった。
ホームの水戸ホーリーホックに20分と21分に立て続けに失点を喫し、あっという間に点差を拡げられてしまう。同時刻に開催されていた4位のヴァンフォーレ甲府対ロアッソ熊本戦は、同じ2-0のスコアで甲府がリードしていた。このままでは、勝ち点1差で甲府にJ1昇格の権利を譲ってしまう。
1ボランチの田村雄三が、DFに声をかける。
「下を向くなっ! 3点目を絶対にやらないようにすれば、必ず前の選手たちが点を取ってくれるから」
チームのシンボルである坂本紘司が、湘南らしさを体現していく。ルーズボールに激しく詰め寄り、マイボールになった瞬間にスペースへ飛び出す。「今年のウチのいいところは、最後まで足を止めずにやりきるところ。0-2になっても、諦めている選手はひとりもいなかった」
最後の試合で2点ビハインド……甲府が逆転のJ1昇格を決める!?
30分に田原豊が追撃弾を蹴り込むと、4分後には阿部吉朗がヘディングシュートを突き刺し同点。失っていた主導権を強引に引き戻すが、ホームの水戸もしぶとい。
バーとポストに救われた。
奇跡的なクリアがあった。
そして53分、阿部が自身2点目となるヘディングシュートをねじ込み、ついに3-2と逆転。甲府は依然としてリードしていたが、昇格の権利は再び湘南の手元に返ってきた。
およそ4分間のロスタイムは、結果的に素晴らしい演出効果をもたらした。冬の寒さが漂うスタジアムに、待ち望んだホイッスルが響く。
うっすらと照明に照らされたピッチに、爆発的な歓喜が駆けめぐっていた。
溢れ出る思いにスタッフと選手たちが身を委ねているなかで、反町康治監督は小走りに水戸のベンチへ駆け寄っていく。木山隆之監督に右手を差し出した。肩を叩いて年下の監督を労う。試合後に決して欠かすことのなかったルーティーンである。
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筆者プロフィール
戸塚啓
1968年生まれ。'91年から'98年まで『サッカーダイジェスト』編集部に所属。'98年秋よりフリーに。2000年3月より、日本代表の国際Aマッチを173試合連続で取材中('10年4月現在)。近著に『世界に一つだけの日本サッカー』(出版芸術社)、『新・サッカー戦術論 対角線上のレフティに注目せよ!』(成美堂出版)がある。































