MLB Column from WestBACK NUMBER

地道な努力を続ける“苦労人”。 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph by三育東西学園

posted2008/02/13 00:00

地道な努力を続ける“苦労人”。<Number Web> photograph by 三育東西学園

 まず、年明け最初の更新が2月を過ぎた今になってしまったことをお詫びしたい。Number本誌を担当していたのなら許されない暴挙なのではあるが、どうしても取り上げたい話題を見つけ出すことができなかった。

 というのも、新年を迎えてもメジャーを賑わす話題は不法薬物使用疑惑一色。しかも相変わらずクレメンス投手、ボンズ選手、テハダ選手等々、彼らが使用したかどうかの真偽を問い質すような動きばかりが目立つ状況が続いている。個人的には誰が不法薬物を使用したかどうかなど、今更興味がない。以前にも書いたが、すでにメジャー球界に不法薬物が蔓延していたことを疑う人は誰もいないだろう。『ミッチェル・レポート』をまとめたミッチェル元上院議員が提言したように、本当に重要なのはメジャー球界から不法薬物を根絶することなのだ。

 それなのに世界アンチ・ドーピング機関から、メジャーリーグのヒト成長ホルモン(HGH)の検査対応が遅れているという批判を受ければ、機構側はただ不快感を表すようなコメントを発表するだけ。さらにメジャーの不法薬物蔓延をほぼ黙認してきたバド・セリグ・コミッショナーが、何の批判を受けることもなくオーナー会議で3年の任期延長が承認された(この難しい時期にコミッショナーになりたい人物がいないというのもあるだろうが)。「メジャーリーグも、球界だけの論理、思考法しか通用しないのか……」と、何とも気が滅入る日々を過ごしているうちに、スプリング・トレーニング直前のこの時期になっていたというわけだ。

 とりあえず今回は多少明るい話題を1つお届けしよう。

 スワローズの木田優夫投手が、LAで自主トレを行っていた1月20日に、地元の日本人補修校の子供たち約80名を相手に野球教室を開講した。もちろんプロ野球選手が野球教室を実施するのは珍しくもないが、日本球界に身を置く木田投手が、LAの子供たちを相手にするメリットなどほとんどないはずだ。それでもLAの知人を通しての急な依頼にもかかわらず二つ返事で快諾し、無報酬どころか自分で道具を買い揃えて野球教室に臨んだ。その根底には「日米問わず子供たちに野球の楽しさを知ってほしい」という彼の信念があったからだと思う。

 今更言うまでもないが、木田投手は日本とメジャー球界の間を2往復した選手だ。

 「日本とアメリカ合わせて8リーグでプレーしていますから」

 ジョーク交じりに話してくれるように、木田投手は、日米でメジャーからマイナーまであらゆる野球事情に精通している数少ない人物なのだ。そんな彼だからこそ、2年前に日本球界に復帰した後も様々なファン・サービスに取り組んでいる。

 例えば、昨年は神宮球場と話し合って、スワローズのクラブハウス前で選手たちを待つファンのためにテントを設置した。さらに決まった子供たちを対象に、1年計画で本格的な野球教室を行ったりした。

 また今年の冬には何度も沖縄に足を運び、スワローズのキャンプ地である浦添市民球場に張られるファン整理のロープをスワローズ・カラーに統一する交渉をしてきた。そして木田投手本人から先日聞いたところによると、私財を投じスワローズの広告を外装した都バス1台を、3月に走らせることになったという。

 もちろん木田投手のそれら活動のすべてが、スワローズ・ファンを大幅に増やす保証はまったくない。だがその一方で、そういった活動が地道ながらも確実にファン獲得につながっていくだろうことは、胸を張って断言してもいい。木田投手のみならず、メジャー球界で日本とは違うファン獲得のプロモーション活動を体験している日本人選手なら、同じようなアイディア、考えを持っているはずだ。

 前回論じたように、もう日本球界からメジャーへ移行する日本人選手の流れを止めることは絶対に不可能だ。それならばいっそのこと、メジャーで価値観を高めた木田投手のような日本人選手を積極的に受け入れるUターン現象化を進めていくべきだろう。ただ単に“流出”とネガティブに捉えず、日本人選手たちが日米間を何往復でもできるようにした方が、日本球界の利益につながると考えるのは、決して短絡的ではないだろう。

 昨年末から開設した個人ブログの通り、最近は異種競技スポーツの取材が続いていたが、いよいよスプリング・トレーニング取材のため数日後にフロリダ入りする。次回以降は、不法薬物以外の明るい話題をどんどん取り上げていきたいと思う。

木田優夫
東京ヤクルトスワローズ

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