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大久保の2ゴール目はきっと近い。 

text by

鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

PROFILE

photograph byTomohiko Suzui

posted2005/02/04 00:00

大久保の2ゴール目はきっと近い。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 彼の動きは、まるでピカソが描く動物たちのようだ――言いたいことはわかるけれども、これまた空想的なフレーズを使うスペイン人もいるもんだ。スペイン人だからこそかもしれないけど。数年前、一般紙のスポーツ欄でトッティがこんなふうに表現されていた。もっとも、ピカソの描く動物たちは説明を聞かないと何がなんだかわからないものばかり、というのが率直なところだが。それはさておき、大久保くんも、いつかそんな表現をされたり、彼だけのアダナがついたらいいな、と思う。

 ゴールとケガという、喜びと苦しみをいっぺんに味わったデビュー戦から1カ月が過ぎようとしている。異常気象で、何十年かぶりにマジョルカ島に雪が積もった。海岸が白く染まったというから、驚きだ。負傷した膝に負担がかからなければいいけれど、心配してしまうほどヘタフェ戦では削られていた。

 「日本人にも技術の高い選手はいるし、通用する」。そう、彼はよく口にする。言葉や文化の違いといったリスクを除けばの話だが、いまのマジョルカではそうなのかもしれない。2部落ちの危機にさらされているマジョルカでは、大久保くんがスタメンを張っていても不思議ではないし、ジャパンマネーという声も聞こえない。それもこれも、デポルティーボ戦でゴールを決めているからだが、マジョルカの島民たちが彼に向ける期待はひしひしとスタンドから伝わってくる。「前よりもボールが回ってくる」ようになったとは言うけれども、彼の望んだタイミングでボールが出てくることはなかなかないのが現実だ。出た、としてもオフサイドになるばかりで。遅いから。そこで、中盤まで下がって顔を出してはボールに触れる機会を作っている。だから、ヘタフェ戦では嫌らしいほどに足首を狙われた。その試合、後半にやっと巡ってきたチャンスには、味方に邪魔をされた。ワン・タッチでボールをコントロールして相手ディフェンスの裏へ抜けたとき、あとはゴールキーパーというところで自分勝手な仲間とのアクシデント。そりゃ、大久保くんも吠えずにはいられなかった。

 クペルの悩みも伝わってくる。ヘタフェ戦では前後半でまったく違う流れを演出した。せざるを得なかったというべきかもしれない。前半は、じりじりと中盤でボールを動かして左右から崩していく意識を持たせたが、いまのマジョルカはなかなかゴール前まで展開できない。後半からは、長いボールを組み合わせて、ディフェンス・ラインの裏を狙った。バタバタしながらも、3ゴールが生まれた。でも、大久保くんにはじれったい79分間だったのではないだろうか。細かいパスをつなぐのはマジョルカに限ったことでなく、スペイン・リーグの特徴だ。しかも、リーグの首位を走るバルサのようにいけば楽しいだろうが、マジョルカのそれは置かれている状態そのもので、レベルの差がある。大久保くんにはエトーのように何度もチャンスが到来するわけでもない。

 開幕前とはガラリと主力選手が変わったマジョルカには、もう少し時間が必要だろう。だが、そんな時間はないから、クペルは2部練習を週に一度行う。インテルのときとは戦力が違う。マジョルカを2部から昇格させてリーグの風雲児となったときは、クペルの戦術が浸透していたから、当時ともまた事情が異なる。選手を走らせるのがクペルの基本。その昔、スタンコビッチが嘆いていた。ウイングでも守備のときはサイドバックまでやらないと怒られる、と。

 大久保くんも良く走っている。削られても、足をなでてはまた動き出す。この繰り返しは自然と身体が覚えていく。ル・マンの松井大輔くんもそうだった。黒人選手が多く、荒っぽいフランス2部のリズムを身体に染み込ませないと、技術も宝の持ち腐れとなる。彼も移籍して何度も傷を負ったが、慣れていくとゴールを決めた。

 外国人枠だから大久保が決めてくれないとマジョルカも困るのだが、ヘタフェ戦ではエースのルイス・ガルシアほどはチャンスが訪れなかった。前半のルイス・ガルシアと大久保くんの動きは、よくかぶった。スペインのリズムに慣れるまで膝が我慢してくれるか心配だけれども、もっともっとゴールを決めそうな気配はある。クペルの信頼が続いて、走り続ければ、2ゴール目もそんなに遠くはない気がする。

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