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青木宣親 卓越した自己分析力でヒットを増産する逸材。  

text by

鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph byHideki Sugiyama

posted2008/03/18 00:00

青木宣親 卓越した自己分析力でヒットを増産する逸材。 <Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

 卓越したアスリートたちが共通して持つ特徴の1つに、客観的に自己分析できる能力の高さがある。

 精密機械のようなミクロの動きを、もう一人の自分が外側から観察する。その結果として、どこが狂って、どこをどう動かすことで修正できるのか。自らをコーチングできることが、いかにスランプを短くし好調を保つかということにつながる。これはイチローから青木へと続くハイアベレージ打者の特長ともいえる。

 「打てないときはどこがどうおかしいのかは分析できる。ただ、原因は様々です。根本をたどっていくと、技術的な問題だけではなくて肉体やメンタルなことにつながっていく場合もある。だから難しい」

 青木は説明した。

 問題の解決策としてこの天才打者は、いくつもの処方箋を持っているのが強みだった。一つの型だけでなく、何通りかの打撃フォームを状態によって使い分ける。打撃を崩した中でも、ヒットを打つための引き出しを数多く持っているのだ。

 「スランプになったときに、元に戻せるなら問題は簡単です。なかなかそうはいかないから、逆にフォームをちょっとずつ切り替えていく。そうすることで打てない時期を短くできる」

 青木はこともなげに語ったことがある。

 一つの打撃スタイルを追求し、それを極めていく打者が多い中で、青木が天才と呼ばれる所以だった。もちろん天才的なバットコントロールとスピードが青木という打者の根幹を支えることは言うまでもない。ただ多くのヒットメーカーたちとも一線を画する部分は、この卓越した自己分析力とその分析結果を打撃フォームの修正に生かせる適応能力といえる。

 そんな青木が、今年は転機を迎える。

 「自分の成績なんてちっぽけ。チームが勝つことの喜び、大切さを実感しました」

 転機は日の丸だった。昨年12月の北京五輪アジア最終予選。一昨年のWBCに続いて、日本代表メンバーとして3試合に出場した青木に、日の丸がチームのために戦う喜びと苦しさを教えてくれた。安打を打つことに命をかけて、身を削るような練習を積み重ねてきた。しかし、日の丸を背負った戦いには、それよりも重いものがあったのだ。

 「今年の目標は、まずチームの日本一。それがあって初めて自分の数字はあるという意識です。だからヒットを打つことではなく、まずつないでいくという意識で打席に立ちたい。その意識があれば、結果としてヒットも増えていくはずです」

 昨年はシーズン通算193安打で、2度目の200本安打には7本足りなかった。技術を極めた男が、その足りなかった分を埋めるとすれば、あとはこの気持ちかもしれない。夢の200本安打を、今年の青木は技術と気持ちで打つ。

青木宣親
東京ヤクルトスワローズ

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