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A−ロッド、ステロイド汚染の衝撃。 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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posted2009/02/10 00:00

A−ロッド、ステロイド汚染の衝撃。<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

 2月7日、MLB一の高給取り、アレックス・ロドリゲスが、2003年(当時レンジャース)のドーピング検査で筋肉増強剤2種(テストステロンとプリモボラン)に陽性反応を示していたと報じられ、MLBに衝撃が走った。

 今回の特ダネを報じたのはスポーツ・イラストレイテッド誌、「4種の異なるソースに確認した」確度の高い情報であったため、三大テレビ局が夕刻のニュースで一斉に報じるなど、A−ロッド薬剤汚染のニュースは瞬時に全米に広がった。しかも、同誌によると、記者に証拠を突きつけられたA−ロッドは、「話すことは何もない。選手組合に聞いてくれ」と回答自体を拒否したとされ、ファンとメディアの心証は一遍に「真っ黒」となったのだった。しかし、始めは黙秘作戦に出たものの、厳しい世論を前に逃げ切れないと観念したのか、2日後の2月9日、A−ロッドはスポーツ専門TV,ESPNのインタビューに応じ、「レンジャース在籍中の3年間(2001-2003年)筋肉増強剤を使用した」ことを告白した。

 6年も前の検査結果がなぜ今頃蒸し返されるのかと疑問に思われる読者のために背景を説明するが、2003年の検査は、MLBにおけるステロイド使用頻度を調べるための実態調査が目的だった。陽性率が5%を超えたときは2004年から本格的な検査を導入するという主旨のもと、「陽性者については名前も公表しないし、処罰もしない」という条件で実施されたのだが、「検査に備えて薬を止める必要はない」と思った選手が多かったのか、何と104人(1,198人中8.7%)もの陽性者を出し、罰則を伴う本格的検査が導入されることが決まったのだった。

 本当ならば、この時点で2003年の検査は話が終わっていたはずだった。しかし、2004年、バリー・ボンズ等を巻き込んだバルコ社違法薬剤供与事件の捜査が進展する過程で、前年の検査結果に「証拠」価値が生じ、話がややこしくなった。捜査当局が、バルコ事件にからんだ10選手について検査結果を証拠として提出するよう求めたのに対し、MLB機構・選手組合は「匿名を条件に実施した検査だから証拠として提出することなどできない」と拒否した。任意提出を拒否される事態に当局は捜査令状を取り付けて検査結果と尿サンプルを押収、当初のねらいだった10人にとどまらず、陽性者104人すべての名を把握した。

 MLBと組合は「検査結果の証拠としての使用差し止め」を求めて裁判を起こしたが、一審・二審で法廷の判断が割れた後、現在第三審の裁定待ちという状況になっている。裁判が長引いたり繰り返されたりすれば、検査結果にアクセスする関係者の数が増えるのも当然で、「いつか104人の名がリークされるだろう」と予想されていたところ、今回、超大物A−ロッドの名が「一番打者」として暴露されたのである。残り103人の汚染選手、今頃、「いつ自分の名が公表されるか」とびくびくしているだろうが、そもそもドーピングという卑劣な手段に手を染めたのが悪いのだから「自業自得」というものだろう。

 ところで、検査結果が陽性とされた2003年、A−ロッドは最下位チームからMVPに選出されるほどの打棒をふるったが、ここで注目しなければならないのは、当時のレンジャースは、とりわけ濃厚にステロイドに汚染されていたチームだった事実である。たとえば、2005年にMLB薬剤汚染の暴露本を出版したホセ・カンセコによると、A−ロッドがレンジャースに移籍した当時の主力選手、フアン・ゴンザレス、ラファエル・パルメイロ、イバン・ロドリゲス等に薬剤使用を指南したのはカンセコ本人だったという。カンセコの「弟子」達に囲まれてA−ロッドがステロイドに手を出したとしても不思議はないし、マリナーズ時代に、チームメートのデイビッド・セギー(カンセコと同じくMLBにおける薬剤汚染の先駆者的存在)から指南を受けた可能性も指摘されている。

 「朱に交われば赤くなる」という言葉があるが、薬剤汚染が特定のチーム内で拡大する傾向は、バルコ社事件当時(2000-2003年)のジャイアンツの例でも明らかである。当時のジャイアンツは、ボンズの専属トレーナー、グレッグ・アンダーソンが薬剤の供給役を務めたのだが、アンダーソンの「支援」がなければ、ジャイアンツが2002年のワールドシリーズに進出することはなかったかも知れないのである。そういえば、ワールドシリーズ進出時のジャイアンツに在籍していた日本人選手、日本復帰直後に「筋肉美」を買われて下着会社のモデルに抜擢されたが……。

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