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宮本慎也が若手に伝えたかったこと。
果敢なヘッドスライディングの意味。 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph bySPORTS NIPPON

posted2009/10/09 11:30

宮本慎也が若手に伝えたかったこと。果敢なヘッドスライディングの意味。<Number Web> photograph by SPORTS NIPPON

北京五輪ではキャプテンとしてチームを牽引した宮本。過去3年間のシーズン打率も3割を超えている39歳の鉄人だ

 去年のオフにずっと一塁へのヘッドスライディングについて取材していた時期があった。

 取材で会った選手や野球関係者に「どう思いますか?」と聞いて回った。

 きっかけは一昨年の北京五輪アジア最終予選でソフトバンクの川崎宗則内野手が一塁にヘッドスライディングをしたのを、シアトル・マリナーズのイチロー外野手が「かっこ悪い。アマチュアみたいなことをするな」と怒ったという記事を読んだことだった。

 高校野球ではよく見る光景だが、最近は「一塁へは駆け抜けた方が早い」というのが定着して、甲子園大会でもめっきり見る回数が減ったように思える。

 プロの選手、特に若い選手の多くは「やっぱり駆け抜けたほうが早いし、ヘッドスライディングはケガのリスクがある。心情としては川崎さんの気持ちも分からないではないけど、やっぱりイチローさんの言うことのほうが理にかなっている」という答えが多かったように記憶している。

宮本慎也はイチローの持論に真っ向勝負する。

 そんな中で「駆け抜けたほうが絶対に早いですか? ヘッドスライディングしたら、アンパイアがもしかしたら“セーフ”って、両手を広げてくれるかもしれないじゃないですか!」と反論した選手がいる。

 北京五輪でキャプテンを務めたヤクルトの宮本慎也内野手だった。

 そして宮本はその言葉を実践した。

 クライマックス・シリーズへの出場権を巡って阪神、広島と激闘を続けていた9月28日。直接のライバルとの対決となった阪神戦(神宮)の3回、遊ゴロを放った際に、一塁に猛烈なヘッドスライディングを試みたのだ。

一塁に頭から滑り込んだ結果はアウトと親指の剥離骨折。

写真ヘッドスライディング直後、親指の痛みに思わずうずくまる宮本。しかしこの後、彼は怪我のそぶりを一切見せることはなかった

 結果は……最悪だった。

 審判は両手を広げるのではなく、高々と右手を上げた。しかも、一塁ベースに突いた右手親指には激痛が走った。

 親指の骨が剥離骨折していた。

「イチローに怒られますね」

 あのときの会話を振ると、宮本は苦笑いを浮かべてこう続けた。

「でも、僕は試合に出ているからいいんです。1試合休んでしまったけど、もう迷惑はかけない」

 翌日の試合は欠場したが30日の阪神戦では右手親指に添え木を当てて、包帯を巻いたままの姿でショートを守った。6回の第3打席では右前安打を放って、親指を骨折しているそぶりは全く見せなかった。

【次ページ】 チームに活を入れるためのヘッドスライディングだった。

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