MLB Column from USABACK NUMBER

松坂DL入りがWBCのせいにされる
理由 ――「dead arm」の恐怖 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2009/04/21 07:01

松坂DL入りがWBCのせいにされる理由 ――「dead arm」の恐怖<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 松坂大輔が開幕早々DL(故障者リスト)入りしてしまった。WBCでは2度目のMVPとなる活躍だったものの、ここまで0勝1敗・防御率12.79とまったくふるわず、ファンをがっかりさせている。

 特に、DL入り前日、4月14日の対アスレチックス戦では、わずか1回で降板した後、試合が延長12回までもつれこみ、レッドソックスはリリーフ陣をフル動員しなければならなかった。翌15日は救援投手が足りなくなる事態が心配されたが、幸いティム・ウェイクフィールドが完投、開幕わずか2週目に襲った「投壊」の危機をレッドソックスは免れた。

「dead arm」というメジャー特有の障害名

 今後は、ジャスティン・マスターソンを救援から先発に回してローテーションの穴を埋める予定とされているが、そのぶん救援陣は手薄になる勘定で、松坂DL入りの影響が、投手陣全体の足を引っ張りかねない事態となっている。

 DL入りの理由を、チームは「肩の疲労」と説明しているが、いわゆる「dead arm」と呼ばれる状態であることでは衆目が一致している。

 日本のファンにとって「dead arm」とは聞き慣れない言葉だろうが、MLBでは、昔から、「投げすぎが原因で起こる肩の異常、本当の怪我が起こる一歩手前」の状態を指す言葉として使われている。最後の登板で、松坂の直球は88マイルしか出ていなかったが、球速が著しく落ちることも「dead arm」の特徴の一つである。また、通常、痛みを伴わないので、今回の松坂のように「肩はどこも悪くない」と本人が言い張ることも珍しくない。治療は「投球を禁止」して肩を休ませることがメインとなる。

 「Dead arm」は投げすぎが原因で起こると考えられているので、当然のことながら、当地では、WBCに出場したことがDL入りの原因になったと考えられている。実際、地元ボストン・グローブ紙が実施した世論調査で、「今後はチーム所属選手のWBCへの出場を禁止すべし」という意見に賛成するファンが85%に達したことでもわかるように、松坂のDL入りがきっかけとなってWBCへの反感が一層強まることとなった。

WBCが原因ではないとしたら……

 とはいっても、松坂が「dead arm」になるのは今回が初めてではない。昨年も5月末に同様の不調に陥りDL入りしているので、松坂の場合、WBCがあろうとなかろうと「dead arm」になることに変わりはないようなのである(「二度あることは三度ある」というが、来年また「dead arm」になるかどうか、興味があるところである)。

 今のところ、当地ではWBCが悪者にされているが、松坂の「dead arm」の本当の原因は、日米の投手調整・起用法についての根本的な考え方の相違にあるのではないだろうか? 日本では、「投手の肩は球数を多く投げて作る」という考えの下、「投げ込み」による調整が重視されるが、米国で日本式の「投げ込み」をしようものならクレージー扱いされるのが関の山で、徐々に球数を増やして肩を作り上げるという、一見「過保護」とも思える調整法が取られている。

「投げ込む」タイプの日本式調整法の限界か?

 日米二カ国の異なる投手調整法、「どちらが正しいか(あるいは間違っているか)」を論じてもあまり意味はないだろう。なぜなら、「中4日、数少ない移動日で6カ月(ワールドシリーズまで進んだ場合7カ月)投げ続ける」という、メジャーの苛酷なスケジュールは、「中5日、移動日だらけ」という日本の「過保護」なスケジュールとは、あまりに違いすぎるからである(しかもメジャーの場合、「手を抜ける」打者はほとんどいない)。

 日本式の「投げ込む」調整法に慣れた松坂にしてみれば、ついつい球をたくさん投げたくなるのもわからないではないが、「日本式の調整法が米国の苛酷なスケジュールにもふさわしいかどうか」は、まだ誰も答えを知らないのである。

 いずれにしても、はっきりしているのは、松坂の場合、2年続けてシーズン中に「dead arm」になったという事実である。メジャーで長く投げ続けたいのであれば、「球数を投げすぎると肩が死ぬ」という、米国流の考え方にも敬意を払うべきだと思うのだが……。

松坂大輔
ボストン・レッドソックス

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