「空振り」の打撃術。
~イ・スンヨプ、劇的復調の理由~

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text by Yasushi Washida

photograph by Hideki Sugiyama

「空振り」の打撃術。~イ・スンヨプ、劇的復調の理由~

関連アスリート・チーム:

チーム・選手名
長嶋茂雄
松井 秀喜
イチロー
李 承燁
読売ジャイアンツ

 打者の練習の基本は素振りにあるといわれる。何の制約もない中でひたすらバットを振って、自分のスイングを作り上げる。

 1993年。松井秀喜(現ヤンキース)が巨人に入団した直後に、当時の長嶋茂雄監督(現終身名誉監督)は「今のままのスイングではプロで通用しない」と言い切った。そうしてスタートしたのが、世に言う「松井育成1000日計画」だった。

 来る日も来る日も、ミスターは松井に素振りをさせた。遠征先では宿舎の自室に松井を呼んでバットを振らせた。東京で試合のあるときは、田園調布の長嶋監督宅で、あるいはわざわざホテル・オークラの一室を借りてマンツーマンの素振り指導を行なった。

「フリー打撃や試合のスイングでは本当の形を作ることはできない。素振りとは武道でいったらいわば型のようなもの。型が完成されて、初めて実戦でも使える応用ができる」

 長嶋監督はこう説明した。

「いい空振りができるようになった」

 巨人のイ・スンヨプ内野手がそう話すのを聞いたときに、この素振りの話を思い出した。

自分のスイングをどう見定めるか? 長嶋茂雄の場合。

「ずっと右肩が開いて、ボールを迎えにいっていたのでスイングに力強さがなかった。でも、コーチに指摘されて肩の開きを我慢するようになったら結果が出た。でも、それより大事なのは結果は出なくても、肩が開かずいい空振りができるようになったことです」

 ミスターの説明によれば、実戦のスイングでは形は作れない。ただ、打者にとってもう一つ大事なことは、自分のスイングをどう見定めるかだ。実戦のスイングでは型を作れないが、だからこそ、自分のいい型とダメな型を見極められる。イ・スンヨプの言葉の裏側にはそんな響きがあった。

「投手と打者の対決とは、いかに相手の型を崩すかという投手に対して、いかに自分のスイングでボールを打つかという打者の勝負だ」

 こう看過したのはミスター赤ヘルといわれた山本浩二元広島監督だった。

「空振りとは型を崩され、自分のスイングが出来なかったときにするもの。ただ、一流の打者というのは崩された中でも、自分の型を失わない。それと大事なのはボールを見送ったとき。このときも打ちにいって自分のタイミングで、自分の型で見送れるようになればスランプは短い。たとえ空振りや見送りストライクでも、そういう型でスイングができ、ボールが見送れたときには、自分のバッティングに自信を持てたものだ」

► 【次のページ】  イチローにとっての「いい空振り」とは?

筆者プロフィール

鷲田康

1957年埼玉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、報知新聞社入社。およそ10年にわたり読売ジャイアンツ取材に携わった。2003年に独立。日米を問わず野球の面白さを現場から伝え続け、Numberほか雑誌・新聞で活躍。著書に『僕のメジャー日記 松井秀喜』(文藝春秋)、『ホームラン術』(文春新書)がある。


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