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4−6−3に注目せよ。 

text by

小関順二

小関順二Junji Koseki

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posted2007/08/30 00:00

 甲子園大会は佐賀北高の優勝で幕を閉じた。春が常葉菊川高、夏が佐賀北高という伏兵の優勝で、スター選手を擁するチームが優勝した昨年とはだいぶ様子が異なる。しかし、常葉菊川高が夏も準決勝まで進出したように、「運」とか「流れ」だけが味方についたのではなく、実力による勝利だったことが図らずも証明された。佐賀北高の実力は秋に行われる国体と、日米親善試合に出場する久保貴大、市丸大介、副島浩史の3人に証明してもらうことにしよう。

 今大会注目したのは、無走者での4−6−3が3つあったこと。ランナーなしの場面で、センターへ抜けるような強い打球を二塁手がぎりぎりの体勢で捕球するが、振り向きざまに一塁に投げても間に合わないと判断し、やはり打球を処理しようと二塁ベース付近まできた遊撃手にボールをトスし、遊撃手がこれを一塁にスローイングするというプレーだ。プロ野球の好プレー特集で必ずと言っていいほど紹介される荒木雅博(二塁手)―井端弘和(遊撃手)の名人芸、と言ったら納得されるだろうか。

 8月11日に広陵高の林竜希(二塁手)―上本崇司(遊撃手)が、8月13日に常葉菊川高の町田友潤(二塁手)―長谷川裕介(遊撃手)が、8月19日には帝京高の上原悠希(二塁手)―杉谷拳士(遊撃手)が敢行し、帝京高の二遊間コンビはみごとにアウトを取った。この二遊間コンビ6人のうち4人が2年生というのが面白い。若い分、思い切ったプレーができるのかなと考えていたが、上位進出の二遊間の顔ぶれを見ると、単純に2年生が多いのだ。

 優勝した佐賀北高の田中亮(二塁手)、準優勝した広陵高の林(二塁手)―上本崇(遊撃手)、4強に進出した常葉菊川高の町田(二塁手)、8強に進出した大垣日大高の平野真也(二塁手)と楊志館高の佐藤翔司(二塁手)―松冨倫(遊撃手)、そして帝京高の杉谷拳(遊撃手)という具合である。ベスト8の二遊間 16人のうち実に半分の8人が2年生だった。

 二遊間はバッテリーと中堅手を含めてチームの根幹を担うため、「センターライン」と一般に呼ばれる。それほど重要なポジションなら経験豊富な上級生が大半を占めそうだが、現実には2年生が半分もいる。これは上位校の監督が来年以降も強いチームを作ろうと、下級生を重要なポジションに置くためだろう。ガチガチの守旧派という印象が強い高校野球の監督が、実際には柔軟性に富み、長い目でチームを見ていることがおわかりいただけると思う。

 無走者での4−6−3だが、少し前までは横着なプレーとして敢行することさえ憚られた。

 「体の正面で捕るように早く回り込め。そうすればそんな格好をつけたプレーをしなくてもすむんだ」

 そんな叱声・怒声が響きわたっていたことだろう。それが1大会で3つも行われた。監督の意識が確実に変化していることを物語っているとは言えないだろうか。

 高校生はプロ野球の派手な部分にばかり目をやり、「俺もあんなことができたら格好いいだろうな」と考える。そういう上昇志向にブレーキをかけず、むしろ奨励する。そういうことが技術の進化につながっていくのだと思う。

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