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「シルバーコレクター」とは
呼ばせない。 

text by

安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2009/02/26 00:00

「シルバーコレクター」とは呼ばせない。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 リーグ、カップ、そしてチャンピオンズリーグ。どれもが準優勝。そのため選手は「これじゃレバークーゼンじゃない。“ネバー”クーゼンだよ」と自虐ネタを披露したものだ。優勝を逃した気持ちを聞かれたGMは人目も憚らず大声を上げて泣き、マスコミは『万年2位』という不名誉なニックネームで皮肉った。それがバイヤー・レバークーゼンというチームである。ところが、かつての強豪も最近の4年間は実力低下が著しく、5~7位の間を行ったり来たり。かつてバイエルンと優勝を争った時代が懐かしく思えるほどなのである。今季は21節現在で5位。つまりは定位置に落ち着いている。

 レバークーゼンが大きな壁を打ち破れないのにはワケがある。まず、ライン河地方の地域性がクラブ全体をのんびりしたムードに包んでしまうため、選手に「少し成功しただけで満足してしまう」体質が染み込んでいるのだ。そしてもう1つが、才能豊かな選手が次々とチームを離れていく悪しき伝統である。あのバラックはここで飛躍への手掛かりを掴んだ。ルシオ、ゼ・ロベルト、ホッキ・ジュニオール、フランサ、ポンテ、エメルソン、パウロ・セルジオ、ジョルジーニョといった歴代のブラジル代表選手は、欧州での本格的な第一歩をこの地で踏んだ。だがいずれの選手も長居することなく、高額の移籍金をオファーするビッグクラブへ次々と買い取られていったのである。

「ブラジルでレバークーゼンはとても有名だよ。ステップアップするための“跳躍台”としてね」と語るのはエンリケだ。DFとして頭角を現した22歳のエンリケは昨夏、800万ユーロ(約9億6000万円)でバルセロナに入団、現在はレンタルの身分である。今季は19試合でフル出場。押しも押されぬレギュラーなのだが、「早く戻って、世界一流の選手と一緒にやりたい」と心はバルサにある。本音を隠さない点は見上げたものだが、プロ意識としてはどうも合点がいかないと不満を表すファンもいる。しかし、こうした選手を手なずけるのに長けているのはレバークーゼンの長所である。人事管理に長けた理想のGMがいるからだ。

 かつて記者会見で泣きじゃくった前任者は見境なく浪費を続けたことでクビとなり、後任のGMにはドイツ代表監督も務めたフェラーが就任。彼こそ、国内屈指の辣腕GMと言ってよい。フェラーは南米から意欲溢れる無名の新人多数を安い原価で入団させた。フラメンゴのレナート・アウグストの獲得には「絶対に元が取れる」と異例の高額で交渉に当たった。さらに、隣町ケルンで瑞々しいプレーをしていたFWヘルメスを引き抜いたのもフェラーの審美眼のおかげである。21試合で16点を奪い、キースリングとリーグ最強の2トップを組むヘルメスなくしてレバークーゼンの躍進はあり得ない。

 フェラーは選手獲得だけではなく、新監督の人選でも腕を振るった。昨年5月、フェラーは2部リーグの平凡なチームを指揮するラバディア監督に白羽の矢を立てた。43歳のラバディアは現役時代、多くの名門チームでゴールを量産したFWだ。特筆すべきは2部と1部それぞれのカテゴリーで100点以上のゴールを記録していること。これは「ドイツ唯一の記録」である。つまり、ゴールの匂いがする男を監督に選んだのだ。しかしラバディアはゴール数にこだわらなかった。ディテールにこだわる練習方法を取り入れ、徹底的に勝利を追求するプレーを選手に要求したのだ。おかげでチーム4年目のMFロルフェスや8年目のGKアドラーの意識が変わり、旧世代を代表するシュナイダーは怪我もあってすっかり蚊帳の外に置かれたのである。

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