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虚構のフリーエージェント 

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海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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posted2009/01/23 00:00

 去年からFA制度の仕組みが変わり、権利の取得年数が、国外移籍の場合は従来どおりの9年だが、国内移籍の場合は8年に短縮された。また、各球団内の年俸によって選手をABCの3ランクに分け、ABランクの選手が移籍した場合の補償金を、従来の120パーセントから、それぞれ80パーセントと60パーセントに減額し、Cランクの選手の場合は不要とした。

 FA制度の主旨は、ドラフト制度によって球団選択の自由を制限された選手の救済と、選手の自由意志による移籍の活性化だから、当然の改正といえる。とくに、Cランクにあたるような選手で、守備位置がほかの選手と重なっているために出場機会がないが、他球団に行けばそのチャンスが増えるという選手はすくなくないはずだから、彼らにとっては朗報だったろう。

 なにしろ、これまでは、1993年の導入以来、去年で16年にもなったのに、その権利を使って移籍する選手の数がすくなすぎた。FA権を取得する選手の数は毎年60人から70人だが、一昨年までの15年間で権利行使を宣言した選手はわずか131人、1年あたりにすると9人弱にすぎない(大リーグでは毎年200人前後の選手が宣言する)。しかも、そのうちじっさいに他球団に移籍したのは55人で、76人は元の球団に残留しているから、1年あたりの移籍選手の数は4人弱にしかならないのである。

 そこで去年のオフだが、国内FAの取得年数が9年から8年に短縮されたことで、権利取得者は例年より21人増えて過去最多の83人になった。ところが、結果はおどろくべきものだった。権利行使を宣言した選手はたった7人で例年の平均よりすくなかったばかりでなく、国内FA権を取得した21人からは権利行使の宣言者すら出なかったのである。

 国内FA権を行使しなかった選手の中には、スワローズの五十嵐やジャイアンツの高橋尚のように、あと1年待って大リーグへの移籍を考えている者もいるようだが、21人すべてがそう考えているわけではあるまい。結局、9年を8年にしようが、ABCのランクをつけようが、ほとんどの選手はその権利を行使しないということだけが明らかになったのである。

 つまり、大多数の選手は他球団には移籍したくないと考えているわけで、日本のFA制度は毎年平均して4人弱しかいないごくわずかの移籍選手のためだけに存在していることになる。700人以上ものプロ野球選手の中で、毎年4人程度しか必要としていない制度にどれほどの価値があるというのだろう。

 結局、去年までの16年間にそれで活性化したのは、選手の年俸の上昇だけだった。公表されている数字によれば、FA制導入前の92年の日本人選手の平均年俸は1759万円、年俸が1億円以上の選手は8人だったのが、08年は平均年俸が3599万円で2倍になり、1億円以上の選手は69人で9倍近くになっている。

 むろん、その結果、選手たちがその上昇した年俸に見合うプレーをして、プロ野球がFA制の導入以前より面白く魅力的になったというなら、それはそれでいいのである。しかし、そうならプロ野球のテレビ視聴率は上がっていなければならないが、そうはなっていない。いったい、各球団は何をおそれ、何のために彼らの年俸を上げつづけてきたのだろう。

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