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明豊・今宮健太との野球談義。
――地方大会で味わう野球の喜び 

text by

小関順二

小関順二Junji Koseki

PROFILE

photograph byHiroyuki Setsuda

posted2009/04/27 07:01

明豊・今宮健太との野球談義。 ――地方大会で味わう野球の喜び<Number Web> photograph by Hiroyuki Setsuda

 4月18日から20日まで、高校野球の九州大会を見るため沖縄に出かけた。スポーツライターの立場で地方大会がいいと思うのは、試合後の取材が甲子園大会のように混雑しないことだ。

 甲子園大会は国民的イベントだから、大小のマスコミ媒体が取材エリアに殺到する。とくに好投手や強打者には記者やライターが群がる。彼らが野球好きであればいいのだが、往々にして修行のためという口実で甲子園大会には若手が派遣される。そして、とんでもないやりとりが選手との間で交わされる。

 3、4年前のこと、野球留学のためアパートで独り暮らしをしているという選手に対して、若い女性記者は「どんな料理を作っているの」とレシピを根掘り葉掘り聞いていた。また1年生の有望選手にショートのレギュラーを奪われた3年生(二塁にコンバートされた)に、有望1年生の何がいいのか延々と聞いている記者がいた。野球の知識が不足しているからデリカシーがない、という記者やライターが甲子園大会には毎年、大挙して押し寄せてくるのである。地方大会にはそういう混乱した取材の場がない。

沖縄の北谷球場でのできごと

 4月19日の鹿児島商対明豊戦で注目したのは、センバツ大会でも注目された今宮健太(明豊・遊撃手&投手・171cm/69kg)。この日は打者として4打数2安打、投手としては最終打者に147キロの快速球で三振を奪う活躍を見せ、甲子園なら取材者が殺到したことは間違いない。しかし、沖縄県北谷球場の取材の場には僕を含めて4、5人のマスコミしかいないから今宮の口は軽く、僕は心ゆくまでこの逸材と話をすることができた。

 似ている選手を探せば、今年の新人、上本博紀(阪神・内野手・173cm/70kg)の名前がすぐに出てくる。上背のない内野手ということ以外に、何をやっても即座に対応できる天才的な動きが2人には備わっている。この今宮の口から頻繁に出てきたのが「センバツでは全然ダメだったですから」という言葉。

 1回戦(下妻二戦)4打数3安打1打点

 2回戦(花巻東戦)4打数1安打

 打率5割ならほとんどの選手は胸を張って「頑張りました」と言えるが、向上心の強い今宮には納得できない。

 僕が気になったのは結果より今宮の打撃フォームのほう。一緒に取材の場にいたスポーツライター、谷上史朗さんに今宮の打球方向がセンバツでは右側(ライト方向)に集中していたことを聞いて、なるほどと思った。打撃フォームに引っ張れない原因がはっきり出ているのだ。

今宮健太選手との最高に贅沢な野球談議

「中島裕之(西武)を意識していない?」と聞くと、即座に「めちゃくちゃ意識してます」と笑顔で答えが返ってきた。グリップ位置を高くして構え、これを大きく斜め後ろに引き、同時に体も沈み込むという形は2、3年前の中島裕之にそっくりだ。

 どうせこれから今宮をさまざまなメディアで誉め倒すことになるのだから、最初くらいは悪いところを指摘してもいいと思い、こんなことを言った。

「今の打ち方で引っ張ろうなんて無理。もっとコンパクトにして」

 すると今宮は「ボールカウントではバッティングを小さくしています」とソフトに反応してきた。頑固なのだ。やりとりは他にもいろいろあった。左腕(引き手)の使い方とか、遊撃手としての腕を振れないスローイング……等々。もちろん、三塁打を放ったときの三塁到達が11.97秒だったことや球際に強い攻守など、プラスの部分も話題にした。

 取材が終わったあとの気分は、爽快だった。意識の高い選手と野球の話をしたあとは本当に気分がいい。18日にはルーテル学院の守護神、井川裕貴とも同じようなやりとりがあった。しばらく、地方大会がやみつきになりそうだ。

今宮健太
中島裕之
上本博紀

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