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三洋電機×サントリー 王者の不在を越えて。 

text by

大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

PROFILE

photograph byShinsuke Ida

posted2009/03/12 00:00

今季の日本選手権は、トップリーグ王者・東芝が不祥事で欠場する異常事態となった。
それでも、決勝で激突した両チームは、シーズンの最後にふさわしい濃密な戦いを見せた。

「客足がもうひとつだねえ」

 協会のボランティア役員が呟いた。

「やっぱりチャンピオンがいないとなあ」

 2月28日。日本選手権決勝前のことである。2008年度の国内シーズンを締めくくる大会で、ラグビーファンは大きな喪失感を抱えていた。すなわち、王者・東芝の不在。

 トップリーグ(TL)終盤に圧倒的な強さを発揮して1位通過、マイクロソフト杯決勝で三洋電機に完勝した東芝は、ヴィヴィリ・イオンギの窃盗事件、クリスチャン・ロアマヌの大麻陽性反応という連続不祥事で、日本選手権への出場を辞退した。

「ラグビーだけでなく、スポーツ界全体を揺るがすような問題を起こしてしまった。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」

 マイクロソフト杯で鬼神のごとく働き、MVPに輝いた廣瀬俊朗主将は、辞退を発表した会見で、肩を落として静かに話した。

「試合に勝てばいい、という意識ではなくなりましたね」

 日本選手権決勝の前日、練習を終えたサントリーの清宮克幸監督はそう言った。

「今回の件で、ラグビーを知らない人にネガティブなイメージを与えてしまった。そこを変えられるような、ラグビーの魅力を伝えられる試合をしないと」

 そして迎えた2月28日。王座をかけた、三洋電機とサントリーのファイナル。

 開始直後はサントリーの時間だった。スクラムを猛然と押し、ラインアウト、ブレイクダウンで相手ボールを次々と奪い、SO曽我部佳憲がキック合戦を制して敵陣を攻略。TL新人賞の巨漢PR畠山健介が三洋NO8ホラニ・龍コリニアシのキックに走り込んでチャージ。18分までにCTBライアン・ニコラスが3本のPGを蹴り込み、9対0とリード。すべてはサントリーのシナリオで進んでいた。

 だが、マイクロソフト杯準決勝でも対戦し、序盤の劣勢を覆して完勝していた三洋サイドからは、違う景色が見えていた。

「1次、2次の攻撃さえしっかり止めれば、サントリーは攻め手がなくなってキックを使ってくる。だからそこへプレッシャーをかけよう。全員がそれを理解して、誰もパニックにならなかった」(榎本淳平主将)

 PGを返し、9対3で折り返した後半、三洋は勝負に出た。7分にベテランFB吉田尚史を、14分には大黒柱のSOトニー・ブラウン、NZ武者修行から一時帰国中のパワフルHO堀江翔太、チャンスへの嗅覚鋭いFL川口大というインパクトプレーヤーをまとめてピッチに送り込んだ。戦力を、逐次ではなく一斉投入。それはゲームを劇的に変えた。

 19分、左タッチ沿いを走った堀江が、相手タックルを耐えてボールを繋ぎ、ブラウン-CTB霜村誠一のパスから吉田が両チーム初のトライ。25分には自陣のターンオーバーから川口が好判断で抜けだし、50mを独走してWTB北川智規へラストパス。33分にはブラウンのハイパントで敵陣に入ってボールを奪い、鋭くギャップを突いた吉田からパスを受けた北川が再びダイブ。どれも準備したムーブではなく、瞬時の判断から、交代選手の活躍で生まれたトライだった。

「リードされていても誰も焦ってなかった。自分も特別に気合いを入れるわけでもなく、普段通りのプレーをするだけだった」と、吉田と川口は口を揃えた。リザーブを含めた22人全員が、80分の試合全体を戦うイメージを共有している。だから瞬時の判断に周りが反応し、トライに結実させることができる。

 一方サントリーは、時間を追うほどにチームが疲弊。曽我部のキックも精度が落ち、他のメンバーの運動量も落ちて、負の連鎖にはまった。この日のサントリーは、リザーブに通常なら4~5人入れるFW要員が僅か3人だけ。故障者が続出していたからだ。

 今季の日本選手権はTLからの出場枠を4から6に拡大したが、TL勢は1回戦でTL同士と戦った後、2回戦では格下の下部リーグ・学生勢と対戦する組み合わせを課され、準備の難しさ、違和感を訴える声も聞かれた。TLで3に増えた外国人枠も2で据え置かれた。NECがトップイーストのリコーに敗れたのも、そんな隙を突かれたものだったかもしれない。結局、日本選手権とはシーズンの最後、フィジカルもメンタルも消耗し、モチベーションの維持も難しい中で戦う、心身の強さを問われるトーナメントなのだろう。

 最後に、改めて東芝の不在について。三洋WTB三宅敬副将は「関係ない」と言い切った。

「何が原因であれ、最後の決勝まで来られなかったチームには理由がある。今日の2チームは決勝を戦うに相応しかったと思います」

 シーズン最後の80分間は、頂点をかけた濃密な戦いだった。その戦いは、王者の不在を忘れさせてくれた……いや、違う。

 そこで勝った三洋が、真の王者なのだ。

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