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鈴木隆行 ここ一番の男。 

text by

高川武将

高川武将Takeyuki Takagawa

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posted2004/11/18 10:15

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[渾身インタビュー]鈴木隆行 ここ一番の男。

高川武将=文

text by Takeyuki Takagawa

 大型スクリーンに映し出される鈴木隆行は、いつものごとく、激しく倒され、踏みつけられ、泥だらけになっている。

 「しっかりしろ!― ボロ雑巾!」

 オマーン戦の夜、東京は恵比寿のサッカーバー。鈴木が潰されるたびに青に染まった店内からは“失笑”に近い笑いが漏れてくる。

 試合前、サポーターに聞いた鈴木評は、軒並み低いものだった。曰く、トラップもドリブルも下手、ポストプレーばかり、ボールをもちすぎる、サイドに流れてばかりいないで真ん中で勝負しろ……。ボールキープや体を張ったプレーを評価する人もいたのだが、もっとシュートを打ち、ゴールを決めて欲しいという要望が、両者の共通項だった。

 確かに鈴木は、W杯ベルギー戦以来、代表では2年間もゴールがなかった。出ずっぱりだったアジアカップは1得点のみ。だが、8月のアルゼンチン戦、9月のW杯1次予選インド戦と、2試合続けて決めている。9月18日のJリーグ磐田戦では、プロ10年目にして初のハットトリックも達成した。にもかかわらず、あまりにも散々な言われ方だった。

 FWの軸として出場し続けることに、疑問を投げかける人たちはいつもこう言う。

 「何で鈴木なんですかねぇ?」

 「ファンの言ってることは正しいですよ」

 のっけからこう断言したのは、セルジオ越後氏である。

 「一生懸命相手を追いかけ、ポストプレーで次の展開を作り、上手くファウルを貰ってセットプレーにつなげる。激しさ、汗かきでは素晴らしい選手。でも、FWとして一番大事な結果を残しているとはいえない。センターFWが8割方、ゴールに背を向けてプレーしていたら点は取れない。ただ、彼のレベルを上回る選手もいないからね。久保も玉田も高原も誰も継続的に点を取れない。だから鈴木にも代表FWの権利がある。これ、嬉しいこと?― 哀しいこと?」

 日本の決定力不足の現状を象徴している存在ということか。矛先はジーコに向く。

 「鈴木が悪いわけじゃない。ただ、競争がないから皆伸びないんです。Jリーグであれだけ得点している大黒将志や大久保嘉人をなぜ呼ばないのか?」

 前代表監督のトゥルシエは鈴木の目を見て起用を決めた。では、現監督のジーコは?

 「人情でしょ。付き合いが長いからね」

 チャーミングな笑みを返されてしまった。

 長谷川健太氏は、少し違う見解だった。

 「彼の一番の武器は、ポストプレーに代表されるように、本当にチームのために全力で戦えることですよね。ただ、一生懸命に動いて力を使いすぎるから、決定力がもう一つ。サイドに流れがちなのもチームの要求ですから仕方ない。ただ、もう少しそこを他の選手に任せて、ゴール前に入っていければ、得点が増えて万人受けするFWになると思いますよ。一生懸命、プラス、ズル賢く」

 潰れ役の心理とはどういうものか。

 「嫌ですよ。おいしいところは他の選手に持っていかれますしね」

 もし監督だったら鈴木を使いますか?

 「相手によりますよね。日本の力が完全に勝っていて、例えば玉田が前を向いてドンドン抜いていけるような相手であれば、潰れ役は必要ない。でも力が五分か上の相手と戦う場合には、鈴木のような潰れ役は絶対に必要ですよ。前線で体を張り、こぼれ球をマイボールにして、中盤の上がりを待てるFWがいないとチームが機能しない。W杯最終予選、そしてドイツ本大会、厳しい試合になればなるほど、鈴木の良さは生きてきますよ」

 厳しい試合ほど存在価値が高まる男――。

 それが現実のものとなった。

 後半6分、鈴木が左サイドで倒され、ファウルを貰う。FKを蹴った小野のスルーから中村が持ち込みセンタリング、ドンピシャのタイミングで走り込み貴重なゴールを頭で叩き込んだのは、鈴木だった――。

 「いいぞ、ボロ雑巾!やれば、できる!!」

 狂喜乱舞のサッカーバーでは、そんな調子のいい声が上がった。

 翌週、鹿島のグラウンドを訪ねた。もちろん日本を救った男に会うためだ。

 ――代表で3試合連続ゴールです。

 「試合後にインタビュアーに言われて初めて気づきました。ああ、俺、3試合も入れてるんだって。調子いい感じで入れてるわけじゃないし、試合のことで頭が一杯だったから」

 ――急に点を取り始めた要因は何だと?

 「たまたまですよ。飛躍的に技術が向上したとは全く感じないし、なるべく点を取りたいという気持ちが強くなってはいるけど、でもたまたまですよ。たまには、こういう時期があってもいいんじゃないですか(笑)」

 ――W杯ベルギー戦でのゴールを、生きてる意味を感じた、と言っていたが今回は?

 「さすがにそこまでは感じなかったですね。負けられないという気持ちばかりで。とにかく、ほっとした。それだけでしたね」

 ――ほっとしたのは、それまで点を取れない時期があって、大事な試合で自分が結果を出せたからということも?

 「それは全くなかったですね。とにかく勝つことだけで。もし負けたら、日本のサッカー界に非常に大きなダメージになる、というのは十分理解していた。次の次のW杯まで出場できなくなれば、自分も含め、多くの選手が大事な世界へのアピールの場を失うわけですよ。だから、ゴールは表現できないほど嬉しかったけど、誰が決めても同じように嬉しかったと思います」

 淡々と謙虚なコメントが続く。

 憤慨されるのを覚悟して、思いきって尋ねてみた。冒頭のサポーターたちの要望をどう思うのか……。

 すると鈴木は、「それはもっともじゃないですか」とあっさり認めて言うのだった。

 「ポストプレーをこなして、サイドでチャンスメイクもして、ゴールもバンバン決める。彼らの言うのは、理想のFWの形ですよね。でも、僕自身はそんなプレーはできないから」

 拍子抜けして思わず笑ってしまった。曲がりなりにも、10年もプロで飯を食っている男である。それにしては、あまりにも率直なもの言いだった。

 思えば鈴木はいつもそうだった。ベルギーはゲンクで出場機会に恵まれない不遇をかこっていた時に2度、結果を残せず一時鹿島に戻った折に1度、話を聞いたことがある。常に前向きな姿勢には好感を持ったが、「他の選手と求めてるものが違う。結果だけにこだわってはいない。苦しい状況の中で人間的に成長したい。自分に負けずにチームのために全力でやれるかだけを考えてる」と淡々と強調する姿には、納得しつつも、どこか不思議な思いにかられたものだった。本心からそう思っているのだろうか、と……。

 そんな思いとは裏腹に、鈴木は一段と明るい口調になっていく。

 ――今年の春先、久保が代表に定着してかなり得点を挙げた。彼のプレーについては?

 「いやぁ、凄いなと思いますよ。ぼうっとしておいて、いきなり爆発的な動きをする。見ていて、いいな、羨ましいなと思います」

 ――羨ましい?

 「うん。あれだけの才能があるというのは。玉田も凄い才能もってますよ。あのドリブルの速さは。あれだけ足も速くてドリブルも速かったら、やっていて楽しいだろうなと」

 ――刺激にはなった?

 「いや、ならないですね。今さら玉田みたいなプレーをしろと言われても、無理だしね。ライバル心?― 全くないですね。基本的に、自分の求めているものを達成したい、という気持ちがあるだけなんです」

 ――W杯の頃、他の代表選手と自分の技術に差がありすぎてきつい、と言っていたけど。

 「今でもそうですよ。代表には巧い人が一杯いますからね。……こういうプレーをしたいというイメージは誰もがもっている。ドリブルで何人も抜いて、どこからでもシュートを打って、必ず決めてしまう、みたいなね。でも、自分ではそれ、全然できないしね」

 ――(苦笑)。

 「だって、自分の試合のビデオを見たときに、『もう、いい加減にしてくれよ!』って思いますもん(笑)。自分の理想のイメージとあまりにもかけ離れすぎてるから。ビデオで見ると『何、これ?― こんなプレーしてたの?』って思うことはね、多いんですよ」

 ――(笑)。それで自分のビデオを見ない?

 「やる気が無くなる。『やっぱ、全然ダメじゃん!』って。見ないほうが、次に頑張れますよ、ホントに。おかしいでしょ!? そんなヤツ!最近もありますよ。代表の試合でもね。『柔軟性ないな、これもうダメだ!来年、選手やってねぇな!』みたいな(笑)」

 ――(爆笑)。イメージはもっと華麗にトラップして、パスを出してるはずなのに。

 「そうそう。硬い!― とか思って」

 ――失礼な話だけど、見てる人もそう思ってるかも知れない。

 「そうだと思いますよ」

 そこまで話すと、鈴木は軽快な口調から一転、しみじみと語った。

 「……まあでも、そんなんでもね、こんなに長くプロでやれて、本当に幸せだと思いますよ。何とかしようとは思うけど、今さら飛躍的に改善できるわけがないから。こんなんだけど、とにかく頑張ろう、としか思えない。プレーの面でよくない分、いろいろな経験をして、苦労をして、何とかそういうもので埋めていきたい……みたいな」

 「頑張ろう」という言葉には、力がこもり、声が裏返った。

(以下、Number615号へ)

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