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大黒将志 点取り屋・フィジカル問答。 

text by

松井浩

松井浩Hiroshi Matsui

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posted2004/11/18 00:00

SPECIAL FEATURES

[待ってろ!代表]大黒将志 点取り屋・フィジカル問答。

松井浩=文

text by Hiroshi Matsui

 今すぐ代表に呼んでほしい新戦力といえば、真っ先にこの選手の名前があがるのではないだろうか。ガンバ大阪のFW大黒将志。今季Jリーグで17得点(10月31日現在)とエメルソン(浦和)に次いで得点ランク2位。日本人に限れば、最もゴールを決めているストライカーだ。

 改めて大黒のプレーをじっくり見ると、まず、ボールを持っていない時のフリーランニングの巧さ、キレの鋭さに目を見張るものがある。サイドチェンジされたボールを追って敵も味方もゆっくりと右へ動く中、ただ一人パッと逆方向へ走ってフリーになるかと思えば、相手DFに近づいてサッと反転、一瞬に裏を取っていたりする。そんな相手DFとの駆け引きを見ているだけでもワクワクする。

 「でも、ボール持ってへんときの動きって、見てる人にはわかりづらいと思うんですけどね。あんまり目立たへんでしょう」

 ――確かに試合でボールだけ追ってたら、大黒君の良さはわかりにくいかもね。そやから「今日の試合は大黒だけ見るぞ」という見方もありとちゃう?― それでも十分楽しめるで。

 「そうですか(笑)、ありがとうございます。でも、僕、もともとドリブルばっかりやってたんですよ。小学生の頃は朝早くから学校へ行って、一人でドリブルの練習をしてました。マラドーナがすごい好きで、ビデオを見てあんな選手になりたいなあと。それが、去年なんですけど、ドリブルで抜くよりもフリーランニングで動いてボールをもらってからシュートを撃つ方が、得点の確率が高いなと思うようになって」

 ――目覚めたのは、まだ去年のことなんや。

 「そうなんです。フリーランニングの大切さは、ユース時代に西村(昭宏・前京都監督)さんからいつも教えてもらってたんですけど」

 ――小学1年の'87年にG大阪ジュニアでサッカーを始めて、高3の時には日本クラブユース選手権で優勝、全日本ユース選手権でも準優勝してる。「MVP」にも選ばれて、トップチームに昇格したのが'99年のことやね。

 「そうです。1年目も11試合に出てるんです。その頃はユースの時の力でトップでも勝負できると思ってたんですけど、それが大きな間違いで。ハーフとか、サイドバックもやったりして、自分の納得できるプレーは全然できなかったです」

 ――少し天狗になってたのかもしれないねぇ。当時、FWにはドロブニャクや小島宏美(現神戸)、播戸竜二(現神戸)、松波正信たちがいて壁も厚かった。それで移籍志願したんやね。

 「小学1年からずっとガンバで、どっか他のチーム行って修行せなあかんわ、甘えてたらあかんと思ったんです。そしたら札幌が取ってくれた('01年)。札幌でも試合にはあまり出られなかったんですけど、そこで岡田(武史・当時監督)さんに練習から試合をイメージしてやらないと点が取れないというのを教えてもろたんです。それから練習でも必ず試合を想定してやってました。フリーでシュートを撃つ練習でも、相手DFをイメージしてダイレクトで撃ったり、わざとボールを止めて速く撃ったり。そんな練習を続けてたら、点を取るイメージがいくつも持てるようになったんです。もう一つ札幌で気づいたのは、一生懸命やっても試合に出れへんかったら、しょうがないということです。それまでやったら『なんで出れへんねん』と不満に思たんですけど、試合で使う、使わないを決めるのは監督なんで、怒っててもしょうがないなと。一生懸命やって出られんかっても、それ以上はできへんし、もっと上達すんのが先やと」

 ――札幌で「そろそろ目覚めなよ」と体を揺すられたようなもんやな。そして1年でガンバに帰ってきた。

 「1年ぶりで紅白戦をするじゃないですか。自分がレベルアップしているのがわかるんですよ。僕はBチームで、Aチーム(レギュラー組)相手に点が取れるようになった。そしたら、西野監督に少しずつFWで使ってもらえるようになったんです」

 ――'02年がスーパーサブ的な存在で、去年からレギュラーになった。ストライカーとしてDFとの駆け引きに目覚めたきっかけは?

 「セリエAのゴール集を見てたら、インザーギとか、シェフチェンコ(いずれもACミラン)とか点取る前は皆いい動きしてるんです。シェフチェンコはフィジカルの強さで押し切ることもあるんですけど、とにかくゴール前でパスをもらう細かい動きがほんまにうまい。それでビデオを見て動きをマネしていたら、僕も点が取れるようになってきたんです。ビエリ(インテル)みたいにガツーンといくタイプのマネは、僕にはできないんで」

 ――去年は10点のうち1点だったヘディングが、今年は増えとるよね(10月31日現在、17点中7点)。それも、ゴール前の動きがよくなったから?

 「それもあります。僕は背がないんで(178cm)、センタリングに対して突っ込みすぎてスペースのない状態というのが一番ダメなんです。あのゴール前の密集の中でも、後ろ行ってから前とか、前へ行くふりして止まったりとかすると、一瞬スペースができるんですよ。そういうことをやるようになって、点が取れるようになりましたね」

 ――スペースがなきゃ自分で作るというのを実践できてると。でも、FWだったら誰でもフリーランニングとか、ゴール前の駆け引きの大切さを知ってるよね。それを大黒君が実践して点を取っているのは、やっぱり運動能力が高いからだと思う。特に素晴らしいのがターン(反転)の鋭さ。あんなにきれいにクルッと回れるようになったのは、いつ頃から?

 「どうですかね。自分では、きれいかどうかもよくわからないです」

 ――股関節がクルッと回るから、あんなに鋭いターンができるんやね。それにゴール前でも無駄な力がフッと抜けるからボールタッチも柔らかいし、ボールが足に吸い付くように見える時もある。

 「ボールタッチは、ガンバジュニアの時からずっと練習してます」

 ―― それから一瞬の速さね。まず、動き出しで体が倒せるでしょ。走り始める時に足を前へ出すんじゃなくて、パッと体を前へ倒して地面を蹴って進む。しかも背筋が伸びて美しいよね。あれぐらい深い前傾姿勢を取れるのは、背中と胸、腹の筋肉がバランスよく鍛えられてる証拠やね。筋トレはしてるの?

 「週1回ぐらいです。それも(負荷の)軽いのを速く動かして。筋トレの成果を走りにつなげようと、すぐにその場でランニングもしてるんです」

 ――いいねぇ。筋トレも、ちゃんと試合を想定してやってるんだ。

 「トレーニングルームで、チームメートに『何してんの?』と聞かれることもあるんですよ。相手のDFを押さえる場面をイメージして、立てたマットにぶつかる練習もしてるんです。知ってる仲間は『またオグリさん(大黒の愛称)、やってんね』って(笑)」

 ――それもいいねぇ。でも、筋トレが週1回と少ないということは、やっぱりボディバランスの良さも子供の頃から自然に身についたということかな。ダッシュ力も子供の頃からなの?

 「子供の頃から足は速いです。でも、ダッシュは、去年の終わり頃かな、“腿裏を使う本”を読んで」

 ―― あっ、僕の本やね(運動科学者の高岡英夫氏との共著で出版した『サッカー日本代表が世界を制する日』と『ワールドクラスになるためのサッカートレーニング』[共にメディアファクトリー]の2冊のこと。ジダンやベッカムなど超一流選手は、本来ブレーキ役の腿前の筋肉に頼らず、アクセル役の腿裏の筋肉がしっかり使えていると指摘した)。読んで、どうだった?

 「面白そうやなと思って読んだら、腿前が筋肉痛になるのはよくないって書いてあって。オレ腿前ばっかり痛なってんで。(その悪影響も自分のプレーの傾向も)全部書いてあるやん。これじゃ、あかんわと思たんです。実際、去年は疲れた時に腿前が痛くなってたんです。監督から『10点は取れ』と言われたので、気持ちで頑張って取ったんですけど、一試合一試合はとても苦しかったです」

 ――腿前をガンガン使うと、ブレーキを踏みながら動いてるようなもんやから、心身ともに苦しくなっていくよね。それで腿裏使うトレーニングしたん?

 「はい。トレーナー(桝井周氏)が詳しいので、今年のキャンプから相談しながら本に書いてあることをやってみたんです。全部は難しいから、腿裏をストレッチする時はちゃんと筋肉が伸びてんのを意識して。ダッシュする前は腿裏を手で触って『ここを使うぞ』と無駄な力を抜いて腿裏を使う意識で。それだけやってました」

 ――いいね、いいね、それで?

 「最初は全然うまくいかなくて腿前が張ったりしてたんです。でも、ずっと意識しているうちにだんだん腿裏が使えるようになって、お尻とか腿裏が張るようになったんです。腿裏を意識するようになってから、ずいぶん変わったなあと思うんですよ。しょっちゅう腿前が肉離れしてたのも大丈夫になったし、ダッシュも速くなったような気がします」

 ――それぐらい腿裏が使えてくると、単にダッシュだけではなくて、いろんな動きがよくなったはずだよね。

 「はい。去年は得点もミドルシュートが多かったんですけど、今年はいろんなパターンのゴールが増えてますからね。それは去年とは比較にならないぐらいチャンスが増えたからで、そのチャンスも待ってるんやなくて、自分の動きで引き出せるようになってます」

 ――ところで、ちょっと尋ねてみるんやけど、最近、脚は痛くない?

 「あっ、膝がね。広島戦(10月17日)の前ぐらいから硬くなって」

 ―― そうだろうね。動きを見てると、膝からスネにかけて筋肉が硬くなってるのがわかる。もともと大黒君の筋肉は瞬発系タイプなので、疲れやすいはずなんや。それにフリーランニングで運動量も多いから、余計に疲れもたまりやすい。3試合連続(広島、大分、市原戦)でノーゴールに終わった原因の一つには、そういうのもあると思うんや。疲れると筋肉が硬くなるから、それをほぐす工夫をするのがいいと思うな。

 「温泉行ったり、ほぐしたりはしてるんですけど、もっと気をつけてやってみます」

 ――それと、相手チームのマークが厳しくなったというのもある?

 「マークはきつくなってますけど、シュートは撃ってますから。(GKの)正面ついたり、ポスト撃ったり、紙一重のところがあるんで、そういうシュートをしっかり決めなダメやとは思いますけど。だから、もっとレベルアップしていかなあかんと思うし」

 ――でも、現実にJリーグでこれだけ点を取っているわけだし、ずいぶん自信にはなってるやろ?

 「そうですね。去年より点が増えてんのはレベルアップしてる証拠やし。もちろん、まだまだ上げていかなあきませんけど、自分でも一昨年より去年、去年よりも今年と質が上がってると思います」

 ――そうすると、次は代表に選ばれたいという思いがある?

 「いや。代表よりは、とりあえず目の前にある試合で点を取りたいと思うだけです。別に呼ばれてもへんのに、代表のこと考える必要もないと思うし。その前にガンバで優勝したいというのがものすごくあって。だから考えるのも、Jリーグの次の試合で点を取るためにどうすればいいんかばっかりですね」

 ――「日本選抜」の一員として初めて招集されたハンガリー戦(10月10日)はどうやった?― 緊張した?

 「緊張は全然しなかったですね。点を取りたかったですけど、ミスしてしもて」

 ――ハンガリーのDFの印象は?

 「そんなに強いとも思いませんでした。それより、あの試合では、バン(播戸)さんと大久保(嘉人)が自分のチームで試合するよりパスが出てくるって言ってたんが印象に残ってます。僕は、逆にガンバの時よりあんまりパスが出てこうへんなと思ったんですよ。それって、ガンバはレベル高いということやなと思て。普段から呼吸も合うし、ボールも出てくるし。ガンバのチームとしての質は、けっこう高いな思いましたね」

 ――そうか。じゃあ、ガンバでの優勝が第一と。これまで育ててもらった恩返しがしたいと、どこかのインタビューでも答えてたしな。でも、しつこいようやけど、その後は、やっぱり代表ちゃうの?

 「代表は選んでもらえないと、どうしようもないので。でも、言わしてもらうと……」

 ――おお、言え、言え。

 「Jリーグの対戦相手には代表選手もいるじゃないですか。でも、ウチの代表じゃない選手の方がうまいなあと思うことがあります。FWでも、日本人同士ではそんなに差がないと思うんですよ。久保(竜彦)さんは身体能力も高いし、ゴール前のひらめきとか、テクニックもあってすごいなあと思う。高原(直泰)さんや玉田(圭司)もうまいと思うし、日本選抜で一緒にやった大久保もゴール前の動きが鋭かった。でも、突出しているのは久保さんぐらいで、あとはそんなに変わらないと思うんです」

 ――やっぱり、本音では代表でやりたい?

 「そうですね。やることでいい経験が積めて、自分を磨くことができますからね。僕、日本選抜の時には練習も楽しみにしてたんですよ。その人のレベルとか、考えていること、それから自分がどれぐらいできるかもわかるじゃないですか。でも、あの時は雨で練習ができなかったんです。代表レベルの選手と練習を一緒にしてみたいと思います」

 ――それを糧に成長できるタイプやしね。

 「西野監督も、そうなってほしいと言ってくれてますし、やってみたいと思います」

 G大阪では、ユース時代から息の合うMF二川孝広とのコンビでゴールを量産してきた。今度は日本代表のユニフォームを来た大黒が、中村俊輔、小野伸二、中田英寿らの繰り出すパスに反応し、世界のDFたちを翻弄する姿を見てみたい。

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