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落合博満 原辰徳 指揮官が背負っていたもの。 

text by

永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

PROFILE

posted2007/11/01 00:00

 リーグ優勝を果たした巨人の野球は、191本という本塁打の数に象徴される。小笠原道大、高橋由伸、阿部慎之助、李承燁の4人は30本台、二岡智宏も20本と、どこからでも本塁打攻勢で得点できる。盗塁が中日の83個よりも20個少ないにもかかわらず、得点で69も上回っているのは、打線のつながりという“線”ではなく、個々の能力という“点”で攻めるチームであることを示している。

 それはオーダーの組み方からも明らかだ。1番打者は長打力のある高橋由。しかも高橋は初球から積極的に打ってくる。得点が初回と7回以降に多いのは、相手投手の立ち上がりを叩き潰すケースと、相手投手が疲れる後半に、配球ミスにつけこんだ一発で主導権を握る展開が多いためだ。たしかに大味な試合は増えるが、仕方がないだろう。東京ドームは右中間と左中間が浅いため、一発に頼っても結果が出る。機動力を重視してキャンプでは走塁の練習が続けられたが、結局は本塁打至上主義の野球になってしまった。

 今年の巨人のスタイルには、指揮官の性格も反映されているような印象を受ける。原辰徳は高校-大学とスター街道を歩み、巨人に入団した後も4番打者として苦労知らずの野球人生を送ったエリートだ。性格的にもまっすぐで、人をだましてまで何かを行うタイプではない。策を弄するよりも地力を発揮して勝ちたいという純粋な一面が、野球にも表れている。ただしそれは、格下の相手はねじ伏せるが、力が上の相手にはあっさりと兜を脱ぐような淡白さにもつながってきた。

 片や中日には、打撃10傑に名を連ねている選手が一人もいない。主砲ウッズは35本の本塁打と102点の打点を叩き出しているが、長打力のある打者は彼しかいない。1試合平均4.33の得点は、1・2番打者を出塁させて、足を絡めた攻撃で得点圏まで進め、多彩な攻撃パターンで還していくという、つなぎの野球(“線”の攻撃)から生まれてきた。

 中村紀洋を獲得したのも、「長距離の魅力を持ちながら右方向に打てる」(石嶺和彦打撃コーチ)というつなぐバッティングができるからだったし、クライマックスシリーズで平田良介がスタメンに入ったのも、つまりながらも右方向に打てるというのが理由だった。

 昨年を含め、過去2度の日本シリーズで敗れた落合監督は、つなぎの野球を徹底することに活路を見出していた。ペナントレースでは、 打力(パワー)がものを言うが、短期決戦の主流は、日米を問わず足を絡めたスモールベースボールになるからだ。

 逆に“パワーが求められるのは投手陣”ということで、投手にはストレートで打者をねじ伏せられるピッチングを求めてきた。その方針が、絶対的エースに成長した12勝の川上憲伸、14勝の中田賢一、12勝の朝倉健太の右本格派トリオを育てることにつながった。さらに守備では、谷繁元信を扇の要に、センターラインをしっかり固めることに成功。二遊間の荒木雅博、井端弘和は、12球団随一といわれる堅守を誇るまでになった。

 巨人同様、中日の野球にも監督の特徴が色濃く反映されている。落合監督は原監督と違い、甲子園に出場した経験もないし、大学を中退し、社会人からの入団という道を辿ってきた苦労人である。その後も、トレード、FA宣言、年俸調停と山あり谷ありの野球人生を歩む中で培われてきたしたたかさは、一筋縄ではいかない作戦を練らせるようになった。

 巨人の“パワー野球”と中日の“つなぐ野球”の対決。最初に仕掛けたのは落合監督だった。

 パ・リーグと違い、セ・リーグのCSに予告先発はない。マウンドに立つのは第1ステージで投げなかった朝倉か、巨人に3勝した山井大介か。巨人は山井と踏んで左打者を7人も並べたが、登場したのは左の小笠原孝。原監督の狼狽をよそに、「アイツは1年を通じてローテーションを守ってくれている」と、落合監督はニヤリと笑った。

 そして2戦目、山井の影におびえ続ける巨人に対して、落合監督は王道野球に徹して、今度は川上を先発させた。対する巨人の先発は木佐貫洋。短期決戦は勝ち星の多い投手から、というセオリーに反した起用だった。

 白眉となったのは4回の攻防だ。1死一塁の場面で、1度バントを失敗した川上にバスターを決められたことで木佐貫は動揺。後続打者に二塁打や犠牲フライを許し、林にマウンドを譲ってしまった。これも“そんなに素直な野球はしませんよ”という、落合監督の意思表示だったのかもしれない。

 3戦目、原監督は高橋尚成を、落合監督は中田を起用する。この試合でも巨人の先制点は本塁打だった。対照的に中日は、昨年の日本シリーズで学んだ教訓を活かして高橋を揺さぶり、簡単に3連勝してしまった。時代は打つだけの野球から、足を絡めた揺さぶりの野球へと変化している。原監督はその事実に気づいていなかったのだろうか。

原辰徳
落合博満
読売ジャイアンツ
中日ドラゴンズ

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