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格闘技界の「明日はどっちだ?」 

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石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph byTomoki Momozono

posted2007/04/02 00:00

格闘技界の「明日はどっちだ?」<Number Web> photograph by Tomoki Momozono

 2007年3月末は、日本の格闘技界にとって歴史的な日々になった。

 もう報道などでご存知だとは思うが、PRIDEが米格闘技団体UFCのオーナーであるロレンゾ・フェティータ氏に事実上、買収されたことが記者会見で発表された。昨年6月の『フジテレビ地上波撤退問題』を発端とし、潤沢なテレビマネーが使えなくなったことからPRIDEを運営するDSEの台所事情は厳しいといわれ、また10年の歴史を誇るそのクオリティ高いブランド力ゆえ、他の格闘技団体、または大資本家から買収の打診を受けている、という噂はよく耳にしていた。

 昨年から本格的なアメリカ進出を果たし、加えてすでに今年の年間スケジュールも発表されていたので、このいきなりの重大発表はいささか驚かされもしたが、概要発表を聞く分には結果的に良い方向に流れていくという。

 4月8日に開催される『PRIDE.34』をもってDSEの榊原信行社長は退任、DSEもまた解散して新オーナーのもと新会社『PRIDE FC ワールドワイド』を設立し、今後も変わらずPRIDEを運営していくという。さらに、敵対関係ではなく兄弟関係になったPRIDEとUFCは、『MMAワールドシリーズ』と称し対抗戦をスタートさせる。PRIDEとUFCのトップファイターや人気選手がリングとオクタゴンを行き来しドリームカードがいくつも生まれるといった公算だ。例えばエメリヤーエンコ・ヒョードルとミルコ・クロコップの再戦やチャック・リデルVS.ヴァンダレイ・シウバといったカードを組むのにも障害は少なくなった。もちろん日本人選手たちにとってもアメリカへの門戸が大きく開いたことを意味している。

 たしかに、こうやって聞く分には素晴らしいことかもしれない。が、ちょっと待てよ、と思うところもある。ひとりのオーナーが日米のメジャー団体を所有する。例えば分野と規模の違いこそあれ、これはNYヤンキースのオーナーであるスタインブレナー氏が、読売ジャイアンツのオーナーにもなるということに等しい。この状況は、直感として構造的な違和感を抱いてしまうのだ。オーナーがアメリカ人である以上、UFCの主な収入源になっているPVV放送など商業的なことを念頭におくと、ビックカードやドリームカードはアメリカ本土で行われることが多くなることが予想できる。UFCを運営するズッファ社のダナ・ホワイト社長は「そういうことはない」と言っているようだが、日本人以上にショービズの世界を知り尽くしているアメリカ人である。豊富な資金を武器にした大胆なメディア戦略を仕掛け、ボクシング以上の人気を博すに至ったUFC。蓋を開けてみるまでは、どうなるかは分からない。

 また、対抗戦にしてもPRIDE側に負けが込むようなことがあれば、PRIDEそのものに存在価値はなくなり、オーナーが同じである以上、最終的にはUFCに一本化することも難しい話ではないだろう。そうなれば、PRIDEは単なる選手を供給する草刈場になってしまう可能性もあり、日本のファンはつらい現実を享受しなければいけなくなる。オーナーの考えひとつ、匙加減ひとつでPRIDEは抗うことなく命運尽きることもあるわけだ。

 さらに懸念を言えば、買収劇のあとに行われる『PRIDE.34』では、さっそくUFCからの使者としてジェフ・モンソンが藤田和之と対戦することが決定したが、ここにもいささか違和感を抱かずにはいられない。次の興行は、PRIDEにとってもUFCにとっても新体制をアピールするために派手なアドバルーンを揚げる大切なタイミングである。にもかかわらず、日本では知名度が低いモンソンとは……。アブダビコンバットで優勝経験もある実力派ではあるのだが、UFCを具現し日本のファンに印象付ける存在としては、インパクトが弱いような気がしてならず、このチョイスは日本という市場を侮っているのではないかと勘ぐってしまう。

 奇しくも時同じくして、K−1/HERO'Sを運営するFEGが6月2日にロサンゼルスのメモリアルコロシアム(10万人収容)で『Dynamite!! USA』を開催することを発表した。アメリカの総合格闘技イベント『エリートXC』との協力のもとチェ・ホンマンVS.ブロック・レスナーという日米双方のファンから“分かりやすく”、“らしい”カードも発表された。また、PRIDE+UFCへ包囲網を敷くべく、アメリカのエリートXC、ストライクフォース、先月このコラムで紹介したBodog、英国のゲージ・レイジ、韓国のスピリットMCらがアライアンスを組んで対抗するというのだ。ひとつの業界は成熟し煮詰まっていくと協力、合併、あるいは淘汰されることでスリム化していくのが常だが、総合格闘技業界にも早くもその傾向が出てきたとうことか。いや、まだまだ過渡期にある業界が勇み足で進んでいるようにしか思えなくもないのだが……。

 『Dynamite!! USA』は、アメリカ4大ネットワークであるCBSの子会社ショータイム・ネットーワークとエリートXCを主催しブロードバンド企業としてアメリカで名の馳せるプロ・エリート社、そして日本からはソフトバンクが資金面での協力をするという。かたやPRIDE+UFCのオーナーのフェティータ氏は年商1500億円ともいわれるカジノの経営者。大資本のもと、日米を中心とした格闘技ビジネスは新たなステージへ向かうことになったわけだ。

 懸念することばかりで申し訳ないが、大資本が絡んでくる以上、そこには「儲からなくてはダメ」というシビアな不文律がある。結果的に、人気選手やトップファイターが酷使される状況も出てきてしまうだろう。

 楽しみである一方、決して手放しでは喜べない不安もつきまとう。今年も格闘技界は波乱含みの1年になりそうだ。

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