サハラマラソン挑戦記BACK NUMBER

360度何も無い砂漠で迷子です……。
過酷なコースでリタイアを夢見る。 

text by

松山貴史

松山貴史Takashi Matsuyama

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photograph byTakashi Matsuyama

posted2011/04/29 08:00

360度何も無い砂漠で迷子です……。過酷なコースでリタイアを夢見る。<Number Web> photograph by Takashi Matsuyama

ひどい砂塵を防ぐためにマスクを着用

●4月3日(日)レース初日の続き……1st stage Total 33km、CP1:13km、CP2:26km

(上)スタート直後の雄大な光景 (下)食料として持ってきていた「うどん」と「白ごはん」

 痛み始めてからは意外と冷静だった。

 残りは240km。

 一般人の平均的歩行速度は時速4~5kmだと言われている。単純計算で、今から全て歩くとなると、約60時間。1日当たり約10時間このサハラ砂漠を歩くことになるのか……そんな数字が脳裏を過ぎる。

 余談になるが、普段走るとき何を考えているのか、という質問をよくされる。常にではないが、こういう数字を思い浮かべて走ることが多い。例えば、その日30kmを時速6kmで走ると決めていて、1時間消化したとすれば、残り4倍の時間をかければゴールで、そこから時速を8kmにすれば残りは今の3倍の時間で終わるんだ、という具合だ。

 だが今回ばかりは10時間歩くという数字は絶望的だった。経験したことも無い上、暑さも、自分の背中にへばりつく荷物の重さも尋常じゃない。

 経験的にこれ以上走るのは良くないと分かっていたし、レースは7日間行われる。もしかすると、明後日には回復するかもしれない。そんな淡い期待を胸に、痛みの出ない程度で歩くことにした。絶望的とは思いつつも、案外何とかなるんじゃないか、という思いがその時はあった。もともと良く言えばポジティブシンキング、悪く言えば楽天的な人間なのである。

 膝痛の原因を考えてみたが、やはり、荷物のせいだろう。膝は少し前から万全な状態ではなかったので、軽く走ったつもりではあったが、荷物が重かった。

 食料だけは妥協せず、食べたいものを食べたい分だけ持ってきていた。完全なるミスだ。今度出るときはもっと食料の量を考えよう。もっとも、二度と出ることはないだろうが。

 荷物を減らすため、そして痛みを紛らわす(意識を違うところに向ける)ために、お菓子を食べながら歩き始める。開始後1時間しか経ってないのに柿の種をボリボリ食べながら歩く自分の姿を見て、たくさんの外国人選手の方が声を掛けてきた。「もう少しでチェックポイント(CP)だから我慢しろよ!」「もう食事か? とんだ食いしん坊だな!」彼らには楽しんでいるように見えたらしい。やはり外国の人はユーモアがある。そんなこんなで、お菓子で気を紛らわせながらCP1に到着。

 CPでは水を1.5L貰える。この重さに+1.5kgは相当きつい。水は飲まないと本当に倒れてしまうので、大量のお菓子を冷やかしに来ていたベルベル人の子供たちに与える。一人にあげると、たくさんの子供たちがやってきて身の危険を感じる。

チョコを喜んでくれたベルベル人の子供たち

 これで少しは軽くなった。休憩しすぎてたくさんの選手に抜かれるが、この段階で順位狙いから完走狙いに目標をシフトチェンジ。

 サハラマラソンと聞いていたので、砂漠ばかりと思っていたが、CP1までは砂礫の道だった。走りにくいが、さほど疲れはない。この道が続くのなら、今日は何とかなるだろう。そう考え、CP2へ出発。

 ……完全に甘かった。さっきまでの道は前フリで、少し進むと、所謂本当の「砂漠」がやってきた。ビックリするほど進まない上に、山みたいなコースを登らないといけない。事務局の連中もやってくれるぜ、と最初は笑っていたが、2時間経っても砂漠は永遠に続く。幸いなのは、砂漠なのであまり膝に負担がかからないこと。怪我の功名か。いやいや怪我をしない方が良かったに決まっている……などと、一人でブツブツつぶやきながら、3時間半程かけてCP2に到着。

 1stステージのゴールまで残り7kmか。CP1での経験から、休憩した方が疲れると分かっていたのですぐに出発することに。

 時刻はPM2時を過ぎ、暑さがピークを迎える。聞きたくなかったが40度を超えていると横を走る外人選手たちが話し合っていた。体温より高いじゃないか……そして道もゴツゴツした石が転がる一本道。進めど進めど景色は変わらず。ビバークが見えた! と思って30分歩くとただの木だと分かる。なんてこった。そんなことを繰り返しながら約1時間半でゴール。

 初日の段階でもう満足した。日本に帰りたい。

【次ページ】 もう歩けないかと思うくらい、とにかく膝が痛いのです。

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