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引退を延期して魅せた、“揺れるキック”で戴冠。 

text by

大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

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photograph byShinsuke Ida

posted2005/03/17 00:00

引退を延期して魅せた、“揺れるキック”で戴冠。<Number Web> photograph by Shinsuke Ida

 「1年引退を延ばした甲斐がありました」

 国内シーズンの締め括りとなる日本選手権で優勝したNECのSO岡野清紀は、照れくさそうに笑った。昨季は同じ日本選手権の準決勝で神戸製鋼に敗れ「悔しさ、もやもや感が残った」ことで現役続行を決意したラストイヤーだったが、同じポジションにはライバルとして現役南アフリカ代表のヤコ・ファンデルヴェストハイゼンが加入。世界最高のSOの華麗なランニングプレーがラグビーファンを魅了した。

 一方、岡野は茨城東高時代はオール茨城にも縁のなかった無名のSO。しかしそのロケットキックを見た者は誰もが「あの10番は?」と記憶に留めたはず。今季の日本選手権で3試合すべてに先発したのも、ヤコの負傷で繰り上がったと見られがちだが、一撃で敵陣深く入る岡野のロングキックと頑健なタックル、迷いないプレー選択が「DFで試合を組み立てるNECのスタイルを徹底してくれた」と箕内拓郎主将も絶賛した。マイクロソフト杯の初戦敗退から蘇ったNECの象徴だ。

 岡野の貢献はそれだけではない。ヤマハとの準決勝は、ハイパント捕球の名手・木曽一も含めてノックオンを連発したヤマハの自滅に見えたが「あれは岡野がわざと回転をかけない『揺れるキック』を蹴ったからなんです」とNECの秋廣秀一テクニカルは明かす。国内でも時折使われる技術だが、岡野の場合は、「NZに留学したとき、同じチームだったカーロス・スペンサーが使ってたキックを真似たんです。雨の日は特に有効なんです」

 ラグビー王国で、“キング”と呼ばれる英雄から頂戴した秘技だったのだ。バレーの変化球サーブや野球のパームボールと同じで、回転しないため微風でもユラユラ揺れて落ちるキック。これで、ここ3年1敗2分けの難敵を下すと、決勝では「同期だけど、高校時代から雲の上の存在だった」廣瀬佳司を相手に勝ち、岡野は有終の美を飾った……。

 「ふざけんな、オレより先に辞めるな」

 準決勝の後。引退の挨拶に行くと、専大で6年先輩のSH村田亙にはそう叱られたが、岡野の引退試合となる全専大×全日大の出場は快諾。岡野は「あこがれの大先輩と、初めてハーフ団のペアを組んで」母校のジャージーで登場する。3月21日の秩父宮には、岡野の「揺れるキック」を見に駆けつけよう。

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