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ボクシング界を席巻する「ゴルビーからの贈り物」。 

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前田衷

前田衷Makoto Maeda

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photograph bySumio Yamada

posted2006/08/31 00:00

ボクシング界を席巻する「ゴルビーからの贈り物」。<Number Web> photograph by Sumio Yamada

「ロシア訛りのシンデレラマン」

ラスベガスのWBC世界ヘビー級タイトル戦を前に、マネジャー、デニス・ラパポートは挑戦者オレグ・マスカエフ(37)をこう言って売り込んだ。

なるほど、4人の娘の父親でもある中年男は映画「シンデレラマン」の主人公ジム・ブラドックが置かれた境遇に似ていなくもない。断然不利の予想の中で臨んだ初の世界ヘビー級王座挑戦。7年前の初対戦では右一発でハシム・ラクマンをリング外に叩き落としてKOしたにもかかわらず、評価されなかったのは、その後5試合中3度KO負けを喫し「終わった選手」とみられていたからだ。

しかし無骨な一発屋の中年ボクサーがまさかの勝利で「記録」達成のキーマンとなる。劇的な結末は最終12回。王者ラクマン、挑戦者マスカエフとも疲労で動きは緩慢。このままズルズルと終了するかと思われたところで、決定的なマスカエフの右強打が炸裂し、ラクマンは脆くも崩れ落ちた。この直後主審は試合をストップし、主要4団体の世界ヘビー級王座すべてを旧ソ連生まれの戦士が占めるという史上初の事態となったのである。

この1年間、アメリカのヘビー級4王者が次々と旧ソ連勢の軍門に下ったのはなぜか。最近のアメリカの凋落も見逃せない。ラクマンには一度強烈なKOを食らった相手に対するトラウマがあったかもしれない。いや、それ以前にアメリカのヘビー級には旧ソ連に対するコンプレックスが払拭されていないのではないか。今も昔もロシア=ソ連は世界一、二を争うボクシング強国であり、定期的に開催されてきた「米ソ対抗戦」では大体ソ連が勝ってきた。旧ソ連の遺産ともいうべき、豊富な才能を科学的トレーニング法で鍛えられた選手たちが、いよいよプロの水になじんできたことも指摘しておきたい。

旧ソ連の社会主義体制に引導を渡したのはゴルバチョフのペレストロイカ政策だったが、プロスポーツの解禁はその副産物である。亡命せずともプロで稼げるようになった旧ソ連や東ヨーロッパの逸材が、多数プロのリングに流入した。

ユーリ・アルバチャコフが旧ソ連初の世界チャンピオンとなって以来14年。「ゴルビーの贈り物」は、今やヘビー級だけでなくあらゆる階級で活躍中である。

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