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魔裟斗、絶頂期で「引退宣言」の真意。 

text by

布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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posted2004/07/01 00:00

 「あと2回優勝したら引退する」6月9日、都内で行われた記者会見で魔裟斗は自ら現役生活のゴールを明言した。順調に今年(7月7日)と来年のワールドMAX世界一決定トーナメントで優勝してV3を達成すれば、潔くリングを下りる。その理由について聞かれると、魔裟斗は「3〜4年後も今のモチベーションをずっと保つことは不可能。ベストでない状態で試合をするのはファンに失礼でしょう」と答えた。あまりにも唐突な引退発言に会見場は一瞬凍りつき、同席したK―1の谷川貞治プロデューサーも眉をひそめた。仕方あるまい。現在のK―1中量級に魔裟斗に代わる絶対的なエースはいないのだから。

 もっとも筆者には魔裟斗らしいカウントダウンに思えてならなかった。以前から「全盛期に退く」と宣言していたからだ。実をいうと、昨年ワールドMAXに出場した時にも、「この大会で優勝できなかったら辞める」という考えを固めていた。選手の引き際は、人それぞれ。完全燃焼できたと思ったら笑顔とともに辞める者もいるし、誰の目から見ても実力が落ちていると思われるのに現役に執着する者もいる。魔裟斗は何人もの先輩の引退に立ち会った末に、「ボロボロになるまでやりたくはない」という結論に至った。魔裟斗の美学の中で、弱くなった自分の姿を人に見られるほど恥ずかしいことはない。

 また彼の勝負論は非常にボクシング的だ。勝っても負けても次があるというぬるま湯的な状況を嫌い、この一戦に負けたら次はないという覚悟でリングに上がる。K―1の世界王者である以上、世界戦に匹敵するグレード以外の試合には出るつもりはない。だから2月の日本代表決定戦では特別試合にすら出場しなかった。その一戦一戦の重みは、ボクシングの世界王者のそれに勝るとも劣らない。もう調整試合に臨むこともないだろう。そうしなければ、王者としてのスタンスを保つことはできない。実はカウントダウン発言には、もうひとつ裏がある。そうすることで、わざと自分に大きなプレッシャーをかけたのだ。2回戦で闘うナラントンガラグ(モンゴル)について「負ける気がしない」と一蹴したのも、精神的に追い込むための作戦にほかならない。V2に挑む魔裟斗は過剰なまでの自信と膨らむ一方の不安の狭間で生きている。

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