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<さすらいのセーブ王> 高津臣吾 「野球の果てまで連れてって」 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2011/04/01 06:00

<さすらいのセーブ王> 高津臣吾 「野球の果てまで連れてって」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

久しぶりに見た台湾国内リーグに感じた戸惑い。

 高津が所属する興農ブルズは、台北から高速鉄道で1時間ほど南に行った台中が本拠地である。本拠地といっても、球場は体育大学のグラウンド。満員になっても1万人に届くかどうかという球場だ。クラブハウスもなければサブグラウンドもない。切符はどこで売るのだろうと見ていると、木造の仮小屋みたいなところにわずかに窓が開いている。チケット売り場だった。球場にブルズのホームを思わせる装飾や看板は一切ない。

 土曜日の夕方、試合がはじまった。相手は統一セブンイレブンライオンズ。クローザーの高津の出番は、あるとしてもまだ先である。久しぶりに見る台湾の国内リーグだが、正直戸惑った。'90年代はじめに見たときよりも明らかにレベルが落ちているのだ。

 個々の選手はそこそこの力を持っている。日本の二軍の控え、中にはレギュラーをねらえそうな選手もいる。しかし、プレーはよくいえばおおらか、悪くいえば雑で、リードされているときでもやみくもに盗塁したり、打球の判断が悪く、外野の間を抜ける打球で一塁にゆったり止まったりといった場面が見られる。投手のけん制、クイックもうまいとはいえない。

まばらな観衆で、「ガンバレ、タカツ」の声援がよく通る。

 たとえ、レベルが多少低くても、観客が沸けば選手のモチベーションは上がる。ところが台湾野球にはチームへの声援というものがない。いや全くないわけではないが、多くはスポンサー企業の社員がおざなりに発するぬるい声援なのだ。観客は2000人も入っているだろうか。

 子ども連れの観客は、夜市に行くよりは安上がりの夕涼みといった雰囲気で、観戦は二の次である。子どもは駆け回り、数少ないビール売りの女の子たちは売り上げよりもボーイフレンドの話に夢中だ。日本やアメリカのようにホームタウン制が確立していない台湾では、エレファンツだけが'70年代のジャイアンツのように飛びぬけた人気を誇り、あとは暗黒時代のパ・リーグのチームよりも顧みられることが少ない。緻密なプレーは望むべくもない。

 それでも試合は進んでいく。高津のブルズが4対2とリードして8回表、ライオンズの攻撃である。1点入ってなお走者一、二塁。ここで高津がリリーフに立った。メジャーのように1回限定などといった「ぜいたく」は通用しない。

 最初の打者にはフルカウントからシンカーをきわどいコースに落として見逃し三振を奪う。つぎの打者にはセンター前に運ばれて満塁。日本のセーブ王に「ガンバレ、タカツ」の声援が飛ぶ。まばらな観衆で声がよく通る。

 ボールから入り、ストライクをつづけて有利なカウントにすると、もうストライクは投げなかった。2球くさいところに投げて、相手が踏みとどまっても、高津に追い込まれた様子はない。ボールゾーンに落ちるシンカーを投げると、打者はがまんしきれないように手を出して一塁フライに打ち取られた。この日、一番大きな拍手を浴びて高津はベンチに戻る。

 9回はショートのエラーで先頭打者を出したが、後続を危なげなく片づけて試合を締めくくった。

 話を聞いたのはこの試合のあとである。

【次ページ】 日米韓台、4カ国のリーグを渡り歩いてもなお……。

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