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「近寄るな」だった吉田輝星の変貌。
仲間のミスでも決勝進出でも冷静に。

posted2018/08/20 16:30

 
「近寄るな」だった吉田輝星の変貌。仲間のミスでも決勝進出でも冷静に。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

秋田勢として第1回大会以来の決勝進出を果たした金足農と吉田輝星。夏の頂点まであと1つ。

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中村計

中村計Kei Nakamura

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Hideki Sugiyama

 ファーストがいない。

 2-1と1点リードで迎えた9回裏。金足農のエース吉田輝星は、日大三の7番・飯村昇大を高いバウンドのピッチャーゴロに打ち取る。

 難なく2アウト目を取ったかに思えたが、打球がやや一塁寄りだったため、一塁手・高橋佑輔も引っ張られて前に飛び出してきてしまう。そのため、吉田が一塁へ送球しようと思ったときには、一塁ベースはがら空きになっていた。

 記録は内野安打となったが、明らかに一塁手のミスだった。

 高橋はすかさず吉田に視線を送って謝ろうとしていたが、吉田はそれを拒否するかのようにすぐさまマウンドへと踵を返した。

「集中状態に入っていた方がいいと思ったので」

「近寄るな」と「気にするな」。

 吉田は、それまで味方がミスをすると、必ず小さく手を挙げ「気にするな」というサインを送ったり、両掌を下に向け「落ち着けよ」という仕草を見せていた。

 吉田が、そうした対応を見せるようになったのは、この夏からだという。捕手の菊地亮太は、顔をしかめながら話す。

「前はもっとひどかったです。謝ろうとしても『近寄るな』という感じで」

 ところが、この夏からチーム内で「切り替え」の意識を徹底し、他の選手の守備も向上したことで、吉田も少しずつ変わってきたのだという。

 一塁手の高橋がミスを犯したとき、あるいは「近寄るな」の吉田が顔をのぞかせたのかと思った。

 だが、フォローも忘れていなかった。直後、金足農業ベンチから伝令がやってきてマウンドに内野手が集まったときだ。高橋が振り返る。

「『なんでいつも(打球を捕りに)来ねえのに、こういうときだけ来んだよ』って笑ってました」

 やはり、いつもの吉田だった。

【次ページ】 吉田1人だけが別世界にいるようで。

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