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世界王者・木村翔の下剋上は続く。
中国で防衛に成功、次は田中恒成。

posted2018/07/30 11:50

 
世界王者・木村翔の下剋上は続く。中国で防衛に成功、次は田中恒成。<Number Web> photograph by AFLO

次々とエリートをなぎ倒して自らの地位を作り上げている木村翔。これもまたボクシングの持つ夢である。

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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 WBO世界フライ級タイトルマッチが27日、中国・青島の青島国信体育館で行われ、チャンピオンの木村翔(青木)が同級4位の挑戦者、フローイラン・サルダール(フィリピン)に6回54秒KO勝ち。2度目の防衛を成功させた。

 強打が売りのサルダールを相手に、木村がその力を遺憾なく発揮した。スタートこそサルダールの危険な右を浴びるシーンもあったが、得意のボディ攻撃で削っていくと、挑戦者は早くも3回に失速。

「後半勝負に持ち込みたい」と語っていた木村ながら、5回と6回に左ボディブローでダウンを奪い、あっけなく10カウントを聞かせての勝利となった。

「遺憾なく力を発揮」と簡単に書いたが、どんな状況でも普段のパフォーマンスを出せる木村の精神的な強さは特筆に値すると思う。今回の試合も本来であれば、モチベーションの低下や、調整不足を招きかねない状況だった。

大手ジム所属でないことの難しさ。

 大手ジムの所属ではない木村は、テレビ局をはじめとする強い後ろ盾を持っていない。だからこそ昨年7月、周囲から見れば“噛ませ犬”という立場で中国に乗り込んだのだ。結果は五輪2大会金メダリストの同国の英雄、鄒市明(ゾウ・シミン)をアップセットで下す快挙だったが、大手ジムの選手ならこんなチャレンジはまずしないだろう。

 元WBC王者の五十嵐俊幸を迎えた大みそかの初防衛戦はTBSで全国放送された。しかしこの試合に勝利しても、TBSが続けて面倒を見てくれるわけではなく、オプション(興行権)は前王者に握られたまま。オプションを買い取る資金もなく、2度目の防衛戦は中国サイドの意向次第、という状況だった。

 もやもやとはっきりしない日々が続き、ようやく中国から「7月下旬に試合」と連絡が届いたのは6月の半ば。試合会場が二転三転し、青木ジムは試合の延期や中止を恐れて、防衛戦発表の記者会見を試合の1週間前まで開くことができなかった。ひとくくりにチャンピオンといっても、こんな不遇な立場もあるのだ。

【次ページ】 悪さもした10代を経て。

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