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有森裕子が今なお実感する言葉の力。

posted2018/06/13 16:00

 
有森裕子が今なお実感する言葉の力。<Number Web> photograph by Atsushi Hashimoto

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

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Atsushi Hashimoto

1992年のバルセロナオリンピック、1996年のアトランタオリンピックと、女子マラソンで2大会連続、メダルを獲得した有森裕子。とくにアトランタでのレース後のインタビューで発した「自分で自分を褒めたい」という言葉は、当時の流行語にも選ばれ、今も多くの人の記憶に残っている。そんな有森が、今改めて言葉の重みを語る。

「自分で自分を褒めたい」というのは、シンガーソングライターの高石ともやさんがおっしゃった「自分で自分を褒めなさい」という言葉からきているんです。高石さんご自身もランナーで、アメリカで走っているときにボランティアの女性に言われた言葉と聞いています。

 名言のように言われることも多いですが、当時は「そんな弱いこと言ってるんじゃない」とか「気持ち悪い」というご意見も結構ありました。

 レースまで自分を追いつめて追いつめて、必死になって、そんなことはおくびにも出さず、結果が出て、ちゃんと人に褒めてもらえればいいですよ。でも、人ってそんなにパーフェクトじゃないでしょ? だから、自分の存在ややってきたことを、ちゃんと自分が分かっていることが一番大事で。そのために使う言葉として、とてもいいものだと思っています。

ケガで2年ぐらい休んだ時、海外の方に……。

 言葉って不思議ですよね。いつからこんな言葉をみんな使いはじめたんだろう、無駄な言葉や表現が多いな、って思うことがあります。

 例えば、スポーツなら“スランプ”。スランプじゃなくて、調子が悪いっていうだけの話なんですよ(笑)。調子は良くなるし、良くならなくても悪いことじゃないんですよ。でも“スランプ”と言った瞬間に、気になりだしちゃって、身動きが取れなくなっちゃう。できることもできなくなってきて、別のことをしなくちゃいけないんじゃないかとか、やっていることは間違いなんじゃないかとか……。自分をどんどん責めて追いつめていっちゃう。

 でも、調子が悪いだけ、って思えば、今はそのなかで頑張ればいいじゃん!と思えるはず。ちなみに、私はスランプって考えたことがありませんでした。だって、ずっと調子悪かったから(笑)。言葉ひとつで発想が狭くなって、切り返せなくなっちゃうんですよね。

 私は、バルセロナオリンピックの後、ケガをして2年ぐらい休んだ時期があります。日本だと「ブランクができちゃいましたね。大変ですね」って言われるんですよ。ところが海外の方に同じことを言うと「You have taken a good break!」って(笑)。同じことを話しても、言葉や捉え方ひとつで全然違うんじゃん、ってすごく楽になれた。迎えた2回目のオリンピックでは、自分さえ自分を信じて消さなければ戻れるんだ、って知れたことが大きな経験でした。

【次ページ】 人間って良くも悪くも、変化していける。

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